NEDO技術評価委員会により土井プロジェクトの事後評価が確定

OCTAの先進性・完成度に高い評点、継続的発展に期待大

 2003.01.06−昨年3月までの4年間にわたって行われた経済産業省の大学連携型プロジェクト「高機能材料設計プラットホームの開発」(通称・土井プロジェクト)に対する事後評価が事実上確定した。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)技術評価委員会の分科会として評価を定めたもので、化学産業の国際競争力強化の基盤形成に大きく貢献できるという結論が下された。評価委員6名(細矢治夫会長・お茶の水女子大学名誉教授)の平均評点は、研究開発成果の達成度で3点満点、実用化・事業化の見通しで2.3点となったが、これはNEDOが評価した過去のプロジェクトと比べて非常に高水準だという。プロジェクト成果物である「OCTA」システムは、完全にフリーで公開されており、今後の幅広い普及が期待される。

 OCTAは、名古屋大学の土井正男教授のもとに、参加企業11社からの研究員が集まって開発が進められた。高分子材料のメソ領域をシミュレーションする世界初の統合システムとして完成しており、誰でもインターネット(http://octa.jp/)からのダウンロードで入手できる。

 今回の事後評価は昨年12月25日に開催した分科会で確定したもので、メンバーは会長に細矢治夫・お茶の水女子大学名誉教授、会長代理に寺倉清之・産業技術総合研究所先端情報計算センター長、委員に高須昌子・金沢大学理学部助教授、長阪匡介・三菱総合研究所科学技術政策研究部主席研究員、兵頭志明・豊田中央研究所フロンティア研究部門第五グループ長、船津公人・豊橋技術科学大学工学部助教授−といった顔ぶれ。このあと2月10日に予定されている技術評価委員会の本会議で評価案が報告され、2月末にはすべての手続きが完了する。

 評価は全体としてかなり肯定的な基調となったが、とくにプロジェクトの政策的位置づけに関する妥当性、プロジェクト管理が適切に行われ、期間内に完成度の高いシステムができあがったこと、世界をリードする水準の技術的成果が得られたこと、事業化への道がすでに付けられていることなどに高い評価が与えられた。

 評価案全体の中には、評点での評価をつけた部分もある。具体的には、「事業の目的・政策的位置づけ」「研究開発マネジメント」「研究開発成果」「実用化・事業化の見通し」の4項目について、“A・B・C・D”の4段階で評価するというもので、第1項目はA(非常に重要)が5名、B(重要)が1名、第2項目もA(非常に良い)が5名にB(良い)が1名、第3項目は全員がA(非常に良い)、第4項目はA(明確に実現可能なプランあり)が2名、B(実現可能なプランあり)が4名という結果だった。これを、Aが3点、Dが0点として数値に換算すると、得点はそれぞれ2.8点、2.8点、3点、2.3点となる。関係者の話しによると、過去の評価実績で3点満点が出ることはめったになかったということだ。

 とりわけ、高評価で一致したのはシミュレーションエンジンの先進性と完成度である。OCTAには、粗視化分子動力学のCOGNAC、レオロジーシミュレーターPASTA、動的平均場法のSUSHI、多相構造/分散構造シミュレーターMUFFIN−の4種類のエンジンがあり、それらが共通グラフィック環境のGOURMET上で高度に統合化されている。解析精度が当初の物性目標値を十分にクリアしており、実験との比較・検証も多数行われたことが高く評価された。

 ただ、GOURMETの操作性の点で改善の余地が残っていることや、OCTAの利用ノウハウ蓄積をさらに進める必要があること、加えて4つのエンジンを自在に連携させる“シームレスズーミング”を実現させることは現時点の技術レベルでは困難で、引き続き開発努力を傾ける必要のあることなどが課題として指摘された。

 今後、ユーザー会や講習会などを通じた普及活動を活発化させるとともに、今回の成果を今後の関連プロジェクトに有意義なかたちで反映させ、さらに高機能なシステムへの進化を促す点で、引き続き国レベルの支援が望まれるとの提言も行われた。とくに、ソフトウエア利用技術の高度化、利用を支援する知的基盤(データベース、知識システム)の整備、量子力学的手法の導入によるミクロ領域への対応−などの点で発展が求められるという。

 また、委員の中からは、OCTAのソースコードが完全公開されていることに関して、外国との兼ね合いから慎重になるべきとの意見もあったが、広範な普及と継続的な発展を第一に考えると、オープンソースの取り組み方は妥当であり、むしろ成果の公共性に照らしてふさわしい判断であるとの結論でまとまった。

 OCTA開発のプロジェクトリーダーを務めた土井教授は、「せっかくできあがったOCTAをこのままにはしない。当面の予算措置にめどがついたのでプログラムの改良を継続し、毎年バージョンアップができるようにしたい。プラットホームとしてのOCTAは非常に汎用性が高いので、対象領域をさらに広げ、とくにナノテクノロジー分野のシミュレーションシステムとして発展させてみたいと考えている」と話す。さまざまな構想を温めているようだ。なお、OCTAの最新版はすでに取りまとめが終わっており、1月中にもリリースできる予定だという。