米イーオンと菱化システムが材料設計用MDソリューションを開発へ
力場パラメーター開発技術の統合で高精度計算を実現、来年3月製品化
2003.03.18−米イーオンテクノロジー(本社・カリフォルニア州、フアイ・サン社長)と日本総代理店の菱化システムは、材料設計分野に適応した分子動力学法(MD)ソフトウエアを開発する。4月に中国・上海に開発センターを設立し、本格的にプロジェクトをスタート。来年3月に「TEAMフォースフィールド」(仮称)として製品化する計画だ。パラメーターが揃っていないために十分な計算精度が出ないという問題点を解決し、材料設計のための統合MDソリューションとして実用化を図る。この市場は大手CCSベンダーが手をつけていない分野であり、反響が注目される。
MDは、原子間の相互作用エネルギーを“力場”として表現してシミュレーションを行う手法で、時間ステップを追ったダイナミックな計算が可能だという特徴がある。1990年代に、ポリマーなどの材料物性を計算で予測する技術として注目されたが、成功事例がほとんどなく、現在ではたん白質などの生体高分子向けの構造解析の用途にもっぱら利用されてきている。
代表的なMDソフトに、カリフォルニア大学で開発されたAMBER、旧ポリジェン社(現アクセルリス)のCHARMM、旧バイオシム社(現アクセルリス)のDISCOVERなどがあるが、それぞれ20年もの歴史があるソフトで、ここ数年はMD自体がそれほど目立った市場になっていなかった。
イーオンテクノロジーと菱化システムは、材料向けMDシミュレーションが衰退したのは、パラメーター不足で十分な計算精度が得られなかったことが最大の原因だったと分析。また、生体分子なら見過ごされるオングストローム単位の計算のズレが、材料分野では重大な誤差とみなされてしまう問題もあったという。そこで、精度に厳しい材料分野を、逆に当面のターゲットにすることにした。
イーオンテクノロジーは、旧バイオシムの力場パラメーター開発チームがスピンアウトしてできた企業で、力場に依存しない第一原理的な分子軌道法(MO)を用いたパラメーター作成キット「ダイレクトフォースフィールド」(DFF)を開発・販売している。菱化システムとしても、かなりマニアックなDFFが発売後1年あまりで7社に売れたことから、高精度なMD計算の応用に関する潜在需要が大きいと判断し、製品化への協力体制を取ることにした。
開発予定のTEAMフォースフィールドは、新規にコーディングするMD計算エンジンと、力場パラメーターを作成・最適化するためのDFF、さらに計算結果の解析ツール群から構成されており、必要な機能をすべて盛り込んだ包括的なパッケージ製品に仕上げられる。
イーオンのサン社長は4月から上海交通大学の教授に就任予定であり、それを契機に現地のエンジニアを登用してイーオン社の本格的な開発拠点を上海に移すことにしている。古いソフトで占められたMD市場に一石を投じ、将来的には生体分野にも応用できる汎用型MD統合システムに発展させつつ、MD市場を席巻しようという狙いがあるようだ。
なお、菱化システムは、設立時からイーオンをバックアップしており、経営戦略や開発方針の策定、ライセンス体系の検討、製品開発業務の支援など、緊密なパートナー関係を構築している。