菱化システムがADME特性予測の新ソリューションを製品化

海外の2製品を独自に統合、第一原理計算から精密予測

 2003.03.28−菱化システムは、医薬候補化合物の人体内におけるADME(吸収・分布・代謝・排出)特性を予測するための新システムを製品化する。国内で独占的に販売している加ケミカルコンピューティンググループの「MOE」と独コスモロジックの「COSMOtherm」を組み合わせ、独自のソリューションに仕上げて提供していく。この分野ではすでにいくつかのソフトが存在するが、量子化学に基づく第一原理計算からADME特性を導くのは今回のシステムが初めて。開発元同士はとくに提携などを結んでいないが、日本で実績が先行すれば欧米にも広がる可能性がある。

 今回のシステムにおいて、ADME予測のカギになるのがCOSMOtherm。これは、対象分子に関する第一原理計算(非経験的分子軌道法または密度汎関数法)結果を利用し、COSMO-RS法に基づいて混合溶媒中における分子表面の電子分布を精密に解析、それにより分子の熱力学物性を推算することができる。

 ADME分野においても、薬物分子が体内の環境と接触する表面部分がポイントであり、COSMOthermではこれを原子間に働く基本的な二つの力であるクーロン力とファンデルワールス力に注目して解析する。体内に相当する混合溶媒系でシミュレーションすることで、現実に則した分子の表面電荷を得ることができる。既存のソフトは第一原理計算に基づいていないため、分極が激しかったりイオン性の物質だったりした場合は力場パラメーターの問題で対応できないことが多いという。また、精密な理論値が得られないため、logP(水−オクタノール分配係数)などの実験的なパラメーターを仮定して解析するが、COSMOthermはどんな分子にも対応できるのが特徴。

 ただ、実際には、COSMOthermはADME特性につながるディスクリプター(記述子)を提示してくれるだけなので、それらのデータを統計解析してADME特性予測に直結する相関式を導き出す必要がある。この処理を担当するのがMOEで、相関式を作成して予測結果を出力するまでの一連のプロセスをわかりやすいグラフィックユーザーインターフェースを使って行うことができる。MOEはソースコードがオープンであり、菱化システムはその内容に習熟しているため、独自にCOSMOthermを組み込むことも容易だったという。

 コスモロジックは、薬物分子に典型的な官能基などの第一原理計算結果データベースを「COSMOfrag」として提供しており、これを利用すれば時間のかかる計算をその都度実行する必要はなくなる。大量の候補化合物をハイスループットで評価したい場合などに有効だ。

 また、MOEはウェブインターフェースにも対応しているので、例えば実験研究者がブラウザーで分子構造を入力し、血液脳関門透過係数(ブラッドブレインバリア=BBB)などのワンタッチボタンを押すだけですぐに予測結果が示されるなどの使いやすいシステムに仕上げることも容易だという。