マイクロソフトが“インフォメーションワーカー”構想

人と情報とプロセスを統合、XML対応オフィス11の機能の一部を公開

 2003.03.05−マイクロソフトは、企業の生産性向上を実現する新しい考え方として“インフォメーションワーカー”構想を打ち出し、それを実際に支援するツールとして開発中の「オフィス11」(コード名、オフィスXPの次期バージョン)の新機能の一部を公開した。3日に都内で開催したイベント「Information Worker Day 2003」において、特定の企業ユーザーとプレス関係者に披露されたもので、とくにXMLへの対応や社内の情報の漏えいを防止する“Windows Rights Management Services”(ウィンドウズライツマネジメントサービス)などの機能が目を引いた。オフィス11の発売時期は今年の第3四半期に予定されている。

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 “インフォメーションワーカー”は、人や情報、業務プロセスなどを相互につなげ、従業員の可能性を引き出し、企業の生産性と創造性を最大限に向上させるワークスタイルだと定義されている。具体的には、(1)時や場所、機器にとらわれず人や情報に到達する「アクセス」、(2)必要な時に必要な形式で書類を作成しデータは他のシステムで相互利用する「文書作成」、(3)人と情報が連携するための共同作業と情報共有の「コラボレーション」、(4)適切な人々と的確な情報を必要な時に交換する「コミュニケーション」、(5)重要な点を気づかせる情報分類とコンテンツ表示「理解と吸収」、(6)決定と行動を的確に進めるタスク管理「意思決定」−の6つのベクトルから構成されており、これらが統合されたワークスタイルがどの程度実現できているかを判断する基準づくりにも取り組んでいる。

 同社では、“Trustworthy Computing”(信頼のおけるコンピューティング)の一貫としてインフォメーションワーカーを実現させる考えで、「積極的に開発費を注ぎ込むとともに、3−5年先に実用化される技術やワークスタイルを研究しデモンストレーションするためのインフォメーションワークセンターを開設した。また、国内ではインフォメーションワーカー提案の専任部隊を30数名で立ち上げた」(阿多親市社長)とした。

 さて、インフォメーションワーカーを支援する具体的製品の目玉が「オフィス11」である。単なる機能追加ではもはやユーザーにバージョンアップしてもらえないという認識のもとに、新しいソリューション開発のためのプラットホームとしてオフィス11を位置づけていく考えだ。現在のオフィスXPでは、アプリケーション間のデータ連携や業務プロセスの統合が難しいという問題があったとしており、新しいオフィス11ではXML技術によってそれらをクリアした。

 例えば、エクセルに住所録データを入力したとしても、ある文字列が名前なのか住所なのかをエクセル自身が判別することはできない。ところが、今回のエクセルにはそのワークシートに設定されているXML定義ファイルのツリー構造を独立したウィンドウとして表示することが可能。XMLスキーマの一覧から「名前」という項目をドラッグし、ワークシートの「名前」に相当するセルにドロップすると、そのセルの項目が「名前」として関連づけられる。そのようにして、XMLと関連づけたセルのデータだけをXML形式で取り出すことができる。いわば、情報に意味を持たせ、業務につなげることを可能にするわけで、これによりXMLデータを他のアプリケーションで自由に再利用できるようになる。逆に、1枚のワークシートのなかに複数のXMLデータベースからのデータを呼び出すことも容易。新しいワードにも同じ機能が組み込まれている。

 また、XML専用のフォーム作成を専門に行うアプリケーション「インフォパス」が新たにオフィスファミリーに加わる。アクセスやビジュアルベーシックと同様の操作で簡単にデータ入力フォームなどを設計できるのが特徴で、完全にノンプログラミング。インフォパスはXMLデータの入力に徹し、それを他のアプリケーションで利用するという使い方ができる。

 オフィス11では、共同作業のスタイルも新しくなる。アウトルックや新アプリケーションの「ワンノート」を使用して、シェアポイントサーバー上で情報共有を実現できる。例えば、アウトルックから「共有添付ファイル機能」を用いてメールを送ると、シェアポイントサーバー上にドキュメントワークスペースが自動生成され、そこに添付ファイルのオリジナルのコピーが保存される。メールを受け取った人がそのファイルを編集すると、編集内容がドキュメントワークスペースの共有ファイルに自動的に反映される仕組み。ほかにも、会議ワークスペースなど、いわば用途に応じたウェブサイトが自動的にでき上がるので、ユーザーは共同で行う業務だけに集中することができる。

 新アプリケーションの「ワンノート」は、手書きに対応している点でタブレットPCのジャーナルに似ているが、ジャーナルが1枚の紙のイメージなのに対し、ワンノートは実際のノートブックのメタファーで、ファイルという概念が存在しない点で異なっているという。

 次に、機密情報を守る新技術として“ライツマネジメントサービス”(RMS)が紹介された。これは、ファイルにアクセス制限をかけるというよりも、情報の中身に鍵をかけるための技術で、例えば特定の電子メールの転送や印刷、コピー&ペースト、画面キャプチャーを禁止したり、メールをみる期限を設定したりすることができる。文書ファイルに対しても、同様に閲覧、複製、変更、印刷、プログラミングアクセスに制限をかけたり、参照できる有効期限を設定したりすることが可能。実際に印刷が禁止されていれば、メニューの印刷の項目がグレーになって使用できない状態になる。コピー禁止の場合も同様で、コピーや貼り付けの機能が働かない。設定は簡単で、ツールバーに追加されているアイコン(進入禁止の道路標識に似ている)をクリックするだけで、細かなアクセス許可を指示できる。

 Windows Server 2003(ウィンドウズサーバー2003)にRMSサービス機能を組み込んで利用することができ、アクティブディレクトリーと連動してユーザーの権限を管理する。ファイルの暗号化やデジタル署名などにも対応している。通常は、社内のネットワーク環境で使用する機能だが、RMSホスティングサービスをマイクロソフトに依頼すれば、ドットネットパスポート(.NET Passport)の個人認証機能を利用することで、社外の人と情報共有することも可能。恒常的に外部企業と連携したい場合は、互いのウィンドウズサーバー2003のRMSサービス同士を接続することもできるようだ。

 一方、インフォメーションワーカーの推進組織として設けられた専門部隊が「ビジネスプロダクティビティソリューション本部」で、米国では昨年7月に設立され、世界で約400名(日本は30数名)の体制となっている。インフォメーションワーカーの理想的なスタイルを実現するためのアセスメントから導入までの総合的な支援を行う。今回のイベントでも、新しく提供しているコンサルティングサービス「IPA」(インディビジュアル・プロダクティビティ・アセスメント)などが説明された。

 IPAは、企業内の特定の個人に焦点を絞り、その人物の仕事の様子を徹底的に調査・分析することで、インフォメーションワーカーレベルの実態把握と改善の余地を明確にしようというもの。出社から退社までのすべての行動をビデオで観察するとともに、パソコンで行った業務内容・操作手順を克明に記録する。このサービスでは最終的に3つのレポートが提供されるが、まずインフォメーションワーク現状分析レポートは仕事の実態をつまびらかにする。2つ目のオペレーションオポチュニティレポートはその人のパソコンの操作や技能面での改善の余地、3番目のエンバイロメントオポチュニティレポートはソフトをバージョンアップすることでの改善の余地を指摘する。

 その他、IT投資効果の予測と測定のための「REJ」(ラピッド・エコノミック・ジャスティフィケーション)と「TVO」(トータル・バリュー・オブ・オポチュニティ)の2種類のサービスを用意した。TVOはガートナーグループの指標を利用してROIを測る。

 阿多社長によると、「この3年間でコンサルタントを150名に増員するなど体制を強化しているが、あくまでもわれわれの製品をうまくご利用いただくためのフォローであり、マイクロソフトがサービス会社に転換することはない」という。