文科省情報学研究所の松本尚助教授らが新型OSを開発

高信頼・高性能なクラスターシステムを低コストで実現、新機軸盛り込む

 2003.01.21−文部科学省国立情報学研究所の松本尚助教授(情報基盤研究系)らの研究グループは20日、複数のパソコンやワークステーションをネットワークで束ねて高信頼で高性能なシステムを構築できる新型OS(基本ソフト)を開発した。これは「SSS-PC」(スリーエス・ピーシー)と呼ばれ、いちから書き上げられた独自OSとなる。複数のプログラムを動的に効率良く並列処理させる機能を組み込んでおり、システム全体を止めることなくマシンの追加や保守作業を行えるのが特徴。松本助教授は「情報科学研究所」(本社・東京都台東区、副社長を兼任)を設立しており、新OSを利用したビジネス展開も進めていく。

 SSS-PCは、松本助教授らのグループが情報処理振興事業協会(IPA)の委託で1994年から開発してきている「SSS-CORE」を機能強化し、パソコンで動作するように改良したもの。 SSS-PC自体がOSであり、ハードウエアにウィンドウズなどの他のOSは必要ない。松本助教授らがいちから開発したOSだが、ファイルシステムはバークレー版UNIX(BSD)のものを使用しており、C言語ライブラリーも共通化されているなど、基本的にUNIX/Linuxと互換性を持っている。このため、UNIX系アプリケーションの移植性に優れているという特徴がある。

 SSS-PCにより、高性能なクラスターシステムを低コストで構築することが可能。独自の高性能通信プロトコル“MBCF”(メモリーベース通信ファシリティ)が搭載されており、業界標準のTCP/IPに比べて通信にかかるオーバーヘッドを30分の1に抑えることができるなど、ノード間通信が高速に行われる結果、ノードの増設に対してシステムの全体性能が直線的に向上する。基本的には疎結合型のクラスターだが、相手のメモリーと直接情報をやり取りできるため、密結合型の共有メモリーアーキテクチャーに相当する使い方も可能で、プログラムを最適化すればかなりの高性能を引き出すことができるという。並列システムとしては、10万台規模のパソコンを接続することができる。

 また、マシン間の負荷分散は、“自由市場原理に基づくスケジューリング方式”(FMM方式)を開発して盛り込んだ。“情報開示機構”と呼ばれる機能が各ノードの動作状態を監視しており、アプリケーションがタスクを並列化するリクエストを出すと、情報開示機構がその時点で一番リソースが空いているマシンを提示してくれる。ランダムな時間間隔でマシンの照会とタスク分散を繰り返すことにより、複数の並列アプリケーションを同時並行的に効率良く動かすことができる。(右の写真参照)

 それぞれのタスクが常に最適のマシンに移送されるため、例えば1台のノードを停止させても、そこで動いていたタスクは他のマシンに自動的に割り振られる。一時的にあるノードに処理が集中しても、すぐに負荷の分散が図られる仕組みだ。この機能を利用すると、アプリケーションの実行を止めることなく、ハードウエアを追加したり、故障したマシンを切り離したりすることが簡単に実行できる。

 研究グループでは、24時間/365日稼働の高信頼性を実現できるリーズナブルなシステムとして、ウェブサーバーやデータベースサーバーなどの用途への採用を働きかけていく。その分野の代表的なソフトをSSS-PC用に並列化して提供することも行う。将来的には、冗長多重構成による多数決実行方式を導入し、突発事故によるマシン停止が起きてもアプリケーションの処理を問題なく続行させる機能を組み込むなどさらに信頼性を向上させ、ディペンダブルコンピューティングの基盤技術として普及させることを狙っている。

 松本助教授らは、今回のSSS-PCをオープンソース版として開示していく考え。時期は、早ければ8月ころ、遅くとも年内には提供を開始できるとした。なお、松本助教授が副社長を務めている情報科学研究所(松本久雄社長・新潟経営大学教授)におけるSSS-PC事業計画はまだ完全には確定していない。 SSS-PCをベースにした企業向けアプリケーション開発やサポートビジネスを推進するほか、機能を追加したSSS-PCの商用版を開発して売り出すなどの事業案があるようだ。