CCS特集:総論

バイオSIブームは一服、パッケージビジネスが順調な伸び

 2003.06.26−新薬や新材料の研究開発を支援するコンピューターケミストリーシステム(CCS)は、ソフトウエア産業としてもすでに20年の歴史を数え、化学・医薬企業のR&Dの武器としてすっかり欠かせない存在となっている。しかし、技術は成熟化するどころか、新しい理論や方法論、新たなアプリケーションが次々に登場し、企業のR&D戦略におけるCCSの位置づけはますます重要性を増しているのが現状だ。とくに、ここ数年はゲノムブームに端を発したバイオインフォマティクス領域で急速な成長がみられたが、昨年度については一時期のバイオSI(システムインテグレーション)ブームは一服し、むしろパッケージソフトウエアの順調な伸びが目立った。これらのパッケージはほとんどが海外の製品だが、ここへきて大学などで国産CCS開発が活発化しつつあり、それらの成果をいかにして実用化・製品化に結びつけるかという新たな課題が浮上してきた。

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 CCSは、遺伝子やたん白質の解析から構造解析、機能解明などのいわゆるゲノム創薬に結びつくシステム群を網羅した“バイオインフォマティクス”、低分子側の化合物情報や反応情報、文献・特許情報検索をはじめ、実験データ管理や試薬管理などの幅広い研究所向けデータベースアプリケーションを含んだ“ケムインフォマティクス”、原子・分子レベルでの構造や電子状態の解析、物性予測などの数値シミュレーションを中心とした“計算化学/分子モデリング”−の3分野から構成されている。

 2002年度の国内CCS市場は、CCSnewsの調べによると約382億円で、前年度に対し14%ほどの成長をしたとみられる。これは、CCS分野のパッケージソフトを中心とする国内ベンダー各社の事業実績をベースに推計したもので、これらのベンダーが納入したハードウエアやシステムインテグレーション(SI)の売り上げは含まれているが、一般的なSIベンダーやバイオベンチャーなどのビジネスは含まれていないということで参考にしていただきたい。

 さて、昨年度に関しては、ここ数年市場の牽引役だったバイオインフォマティクス分野が伸び悩んだことが特筆される。この市場は国家プロジェクト依存型のSIビジネスが大半を占めている。予算そのものは引き続き投下されているが、その多くの部分は建物や設備・装置に費やされており、コンピューターシステムへの配分は少ないのが現状。ハードウエアも、高価な大型マシンよりも、PCサーバーやブレード型クラスターなどの低価格機に需要がシフトしているという実態もある。

 数年前のゲノムブームの時には、バイオやCCSと何のかかわりもなかったSIベンダーが大挙して市場参入したこともあったが、最近ではやはりしっかりとした実績やノウハウがなければプロジェクトに加わるのは難しいようで、一時期の浮ついたブームは過ぎ去ってしまっている。ベンダー側も自分が参加すべきプロジェクトを十分に見定めて、将来にわたるノウハウ獲得につながるような案件を絞り込んできているようだ。

 反対に、地道だが順調だったのが各分野のパッケージソフトビジネスで、平均すると20%ほどの成長があった。計算化学関係も安定した需要があり、ライフサイエンス系だけでなく、材料科学分野のシステムも根強い伸びを示している。

 とくに、実験がハイスループット化し、たくさんのデータが蓄積されるようになっているため、実験装置からのデータ収集・解析、研究所内のデータの統合化・共有化、大量のデータからの有用情報のマイニングなどに関係したソフトの需要が拡大した。ハードウエアでは、低価格と扱いやすさを武器にPCサーバーやPCクラスターが広く普及した。

 一方、ここへきて外国ソフト一辺倒の状況を変えようという動きが活発化している。1980年代末の国産CCSの黎明期には大手化学会社と大手コンピューターメーカーとの共同での開発・製品化がなされたが、このところは大学を中心とした動きとなっているのが特徴だ。まだ粒は小さいが、国産に取り組むソフトベンダーが増えてきていることも心強い。

 大学系のソフトは、国家プロジェクトがらみでの開発が多い。CCS関係のプロジェクトは過去にもいくつか存在したが、ほとんどが広く普及することなく役目を終えていった。まさに、プロジェクト後の普及を意図した活動がなされない場合が多かったことが最大の原因だろう。端的にいうと、そのソフトをビジネスとして発展させるベンダーの存在が必要なのである。実際、海外の著名なCCSのほとんどすべてはそのパターンだ。大学でつくられたあと、商品として流通することでさらなる発展を遂げていくのである。

 ただ、現時点ではCCSに決定的な理論やシステムはあり得ないため、他のソフトと比べて事業化へのリスクは大きい。その意味では、大学で活発化した国産CCS開発を産業界としてどう受け止め、ビジネスとして発展させるか、いままさに新しい産学協同のスタイルが求められているといえそうだ。