CCS特集:豊橋技術科学大学・船津公人助教授インタビュー
コンピュータ化学会の学会賞を受賞、情報化学と計算化学の調和が重要
2003.06.26−豊橋技術科学大学知識情報工学系の船津公人助教授は、5月に開催されたコンピュータ化学会春季年会で学会賞を受賞した。有機反応設計などのコンピューターを駆使した独創的研究と海外における積極的な論文発表が評価されたもの。CCSの方法論としては、理論的な数値シミュレーションで化学の本質を探ろうとする“計算化学”と、たくさんのデータを集めてその中から化学の本質を理解しようとする“情報化学”の2種類があるが、船津助教授は情報化学分野における国内の代表的研究者の一人。今回の受賞の喜びとともに、今後のCCSの発展への課題などを聞いた。
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船津助教授は、今回の受賞に当たって、「20年前にコンピューターをまったく知らずに飛び込んだ世界で、このような名誉な賞をいただくのは思ってもみなかったことで、共同研究者や学生たちのおかげでもあると感謝している。本当は一番に恩師の佐々木先生(佐々木慎一元学長、故人)に報告したかった」と話す。コンピュータ化学会は、どちらかというと計算化学分野の研究者が多く集っている学会であり、「そこで情報化学出身の自分が受賞したことは意義深いと感じている。計算と情報で学問レベルの上下を競い合うのではなく、いまや両者が調和し合って問題解決に取り組む機が熟したのではないか」。また、「これが情報化学分野でがんばっている若手の励みになればいい」とも。
船津助教授は、分子設計のトータルシステムを「何をつくるか」(設計)、「どうつくるか」(合成経路設計、反応設計)、「実際にできたか」(構造同定)−の3つの要素からとらえている。「設計と合成と構造のそれぞれのフェーズには情報がともなっており、その情報が三者間を円滑に流れる時に、情報の流れが“知識”になる。つまり、事実から知識をいかに導き出すかという問題であり、具体的にはデータベース(DB)から知識ベース(KB)をいかにつくり出すかがポイントになる」と説明する。DBからKBを自動的に誘導する技術が船津助教授らのグループの独創的研究成果であり、その実績は世界的にも評価されている。
近年、企業におけるCCS利用が一時期ほどの活気をみせてないことについては、「CCSへの基本的な期待感が失われたとは思わない。ただ、企業が期待することにはいくつかのレベルがあり、ある程度本質を押さえたところで方向性がわかればいいのだという場合も少なくない。情報化学は単なるDBシステムではなく、そこから抽出された知識を活用すれば、本質を損なわないレベルで研究の方向性を明示する力は持っている。CCSが計算だけだと思われると、期待にそぐわない結果に陥りがちだが、要所に情報化学を組み合わせるなど、問題解決にはいろいろな攻め方があることをまず理解してほしいと思う」と強調した。
また、産学連携に関して、「大学には自由度の高いCCSのソフトがいっぱいあるので、企業はもっと大学を利用してくれていい。これからの時代、産学連携はますます強化すべきだと思う」と述べている。