ヒューリンクスが分子軌道法最新版Gaussian03を発売
日本人研究者の計算理論を強化・拡充、高分子/結晶も対象に
2003.05.03−ヒューリンクス(本社・東京都渋谷区、滝沢治雄社長)は、米ガウシアン社が開発した非経験的分子軌道法ソフトの最新版「Gaussian03」(商品名)の販売・出荷を開始した。計算化学の定番といえるソフトで、1997年に発売されたGaussian98以来の約5年ぶりのメジャーバージョンアップに当たる。新しい計算理論の追加やアルゴリズムの改良、高速化がバランスよく実施されており、結晶や高分子などの大きな系にも対応することが可能。分子軌道法の応用領域を広げるものと期待される。最新版の投入で前年度の2倍の売り上げを目指す。
Gaussian03は量子化学の法則に基づいて化学構造と化学反応を数値的にシミュレーションするソフトで、基礎化学・理論化学に関係したさまざまな分野の研究者に利用されている。製品ファミリーは、UNIX/Linux対応の「Gaussian03 for UNIX」、ウィンドウズ版の「Gaussian03W」、マッキントッシュ版の「Gaussian03M」−の3種類があり、グラフィックソフトの「GaussView」もそれぞれバージョン3.0に機能強化された。かねてよりニーズの高かったMac OS X対応のGaussViewMが今回初めて製品化されたことも特徴となっている。
計算機能面では、とくに米エモリー大学の諸熊奎治教授ら(http://euch4m.chem.emory.edu)が開発した“ONIOM法”が大幅に強化された。前バージョンから実装されていた理論だが、精度や速度が向上し、たん白質などの生体高分子にも本格的に適用できるようになった。また、密度汎関数法(DFT)で周期境界条件を導入することが可能。ポリマーや結晶のような繰り返し構造や分子集合体を定義し、固体構造や化合物のバルク特性をシミュレーションできる。
励起状態の計算では、京都大学工学部の中辻博教授らのグループ(http://quanta.synchem.kyoto-u.ac.jp/)が開発した“SAC/SAC-CI法”(Symmetry Adapted Cluster / Configuration Interaction)を新たに採用した。さらに、溶媒効果を取り入れた計算のアルゴリズムも強化されており、新しい空洞生成法の導入などIEFPCMモデルが拡張された。
一方、専用グラフィックソフトのGaussView3.0は、Gaussian03の全機能に対応しており、周期境界条件のモデリングを行う機能が追加されているほか、スペクトル予測ではNMR(核磁気共鳴)、IR(赤外線)、ラマン、VCD(赤外円二色性)などのチャートを可視化できる。
ソフト価格は、ウィンドウズおよびマッキントッシュ版が35万円(教育機関14万6,000円)、GaussViewが18万6,000円(同10万5,000円)。UNIX版はバイナリーシングルライセンスが220万円(同38万円)で、ソースコードサイトライセンスは540万円(同80万円)となっている。
ヒューリンクスでは、Gaussianの実行を並列化するプログラミングツール「Linda」(サイエンティフィックコンピューティングアソシエイツ社)も合わせて提供していく。安価なLinuxクラスターを利用した高速計算環境を構築できるため、研究室単位での導入も可能で、Gaussianのパワーユーザー向けに提案活動を行っていく方針だ。
なお、Gaussian03の販売は、同社以外の正規代理店である住商エレクトロニクスや菱化システム、コンフレックスなどからも行われる。
ちなみに、Gaussianの後ろに付く年号は、1980年代までは開発グループを区別するために偶数番号版と奇数番号版に分かれていた。ガウシアン社が開発してきたのは偶数番号のGaussianで、奇数番号を付けたのは今回が初めて。もとの奇数番号GaussianはGaussian85を最後にSPARTAN(米ウェーブファンクション社)に変わっており、すでに偶数番号にこだわる意味がなくなったのだと思われる。