日本総研が高分子材料設計支援システムJ-OCTAアルファ版をリリース

使い勝手と処理速度を大幅向上、シナリオナビゲーターを新たに提供

 2003.04.18−日本総合研究所は、高分子材料設計支援システム「J-OCTA」(商品名)のアルファ版をリリースした。昨年3月まで実施された経済産業省の大学連携型プロジェクト「高機能材料設計プラットホームの開発」(通称・土井プロジェクト)の成果の商用化を目指したもので、予約販売という形で協賛企業を募って開発を推進中。3年間で最終的な商用版を完成させる。今回リリースしたのは初年度の開発成果を盛り込んだアルファ版で、使いやすさが大幅に向上した。今回は土井プロジェクト参加企業の中ですでに予約している10社ほどに提供されたが、来年のベータ版では新規企業を含めて20社以上への提供を見込んでいる。

 J-OCTAは、土井プロジェクトで開発され無償公開されている「OCTA」をベースにしたもの。基盤となる計算理論に精通し、ある程度のプログラミングのスキルを持つ利用者を想定しているフリー版OCTAに対し、幅広い研究者が利用できるように使いやすさを向上させるとともに、パフォーマンス面での改善も図り、高速なコンピューティング環境にも対応させるのがJ-OCTAの開発の狙いとなっている。

 さて、今回のアルファ版だが、GUI(グラフィカルユーザーインターフェース)の使い勝手を見直し、メニューや画面の構成を大きく変えた。また、過去に行った解析事例を知識として共有し、再活用できるようにする“シナリオナビゲーター”機能を追加。計算エンジンを使いやすくするためのモデリングツールとして、まずは粗視化分子動力学法のCOGNACに対応した分子モデラー“MODEO”を用意した。

 新機能のシナリオナビゲーターは、これまでに行った解析手段や解析手順を“シナリオ”として蓄積し、それを再現実行できるようにしたもの。手順だけを生かして解析のパラメーターを変更できるので、パラメーターを少しずつ変えながら解析結果を検証する感度解析にも利用できる。初めて使用するユーザーのためのチュートリアルになるほか、“シナリオ”を数多く蓄えていくことで一種の知識共有が促進できるという。

 アルファ版のシナリオナビゲーターでは、土井プロジェクトで行われた解析事例が提供されており、高分子のメソ領域をシミュレーションする4種類の計算エンジン(粗視化分子動力学のCOGNAC、レオロジーシミュレーターPASTA、動的平均場法のSUSHI、多相構造/分散構造シミュレーターMUFFIN)を利用した解析シナリオや、SUSHIとMUFFINおよびSUSHIとCOGNACを連携させた解析シナリオなどが含まれている。ユーザーはこれらを参考にして自分の研究に応用を図ることが可能。

 シナリオは、処理の手順がブロックとして階層的に表現されているので全体の流れを理解しやすい。実行・中断の制御などもワンタッチで行える。シナリオ自体はJython(Java版Python)で書かれたスクリプトファイルで、シナリオブロックと階層構造を定義する拡張命令が組み込まれている。次期のベータ版では、直接Jythonを扱わなくてもシナリオが作成できる専用エディターが提供される。GUIでシナリオを記述できるようになり、条件分岐やループなどの制御構文の追加、シナリオテンプレート部品の提供、デバッグ機能の提供なども行われる。

 また、今回のアルファ版で追加されたCOGNAC用分子モデラーのMODEOは、CONGACの前処理をGUI環境で行えるようにしたもので、入力ファイルを作成し、力場パラメーターなどの設定を支援する機能を備えている。画面上で高分子のモノマーを作成し、粗視化単位を指定して解析用のポリマーをモデル化することが可能。他の計算エンジン用のモデリングツールもベータ版以降で用意される予定である。

 一方、処理速度の向上に関しては、テキスト形式が基本のOCTA専用入出力ファイル“UDF”をバイナリー形式で利用できるようにした。ファイル形式をバイナリーに変更することで、データ処理速度が数倍から100倍に、画像描画速度も数10倍に高まるという。現時点ではコンバーターを介してバイナリーに変換する必要があるが、七月に予定されているアルファ版のアップデートリリースでバイナリー形式のUDFファイルを各エンジンで直接扱えるようにする。

 なお、J-OCTAの予約は来年3月まで受け付けており、ソフト価格は各計算エンジンがサイトライセンスで70万円、GUIのJ-GOURMETがプロセッサー当たり70万円となっている。同社では、並行してフリー版OCTAの有償サポートビジネスも手がけているが、すでに土井プロジェクト参加企業以外で6社にサービスを提供中だという。ベータ版までに20社以上の予約注文を目指していく。