物質・材料研究機構が材料DB事業を大幅強化

JSTから6つのDBを移管、全11種類を無償公開中

 2003.04.25−物質・材料研究機構(NIMS)は、4月から材料研究・開発に役立つデータベース(DB)を大幅に拡充・整備し、新たな体制でサービスを開始した。専門組織の「材料基盤情報ステーション」(八木晃一ステーション長)を設立し、「NIMS物質・材料データベース」の名称で11種類のDBをインターネットで無償公開している。そのうちの6種類はこのたび科学技術振興事業団(JST)から移管されたもので、公開と合わせてデータを追加・更新する事業にも継続的に取り組んでいく。ステーションでは、実際の材料開発に役立つDBとして、企業などに広く使われることが最も重要だと認識しており、内外の利用機関との共同研究などを促進していく計画だ。

 独立行政法人のほとんどは中期計画をベースに運営されており、NIMSとしては2001年度にスタートした現中計のもとでJSTが作成・管理・運営しているDB事業を引き継ぐ基本方針が定まっていたという。実際の移行作業は、この1年間で行われたが、単純に移すのではなく、NIMS側でデータ整備およびシステムの更新を行った。中身が同じでも、データ検索速度が20倍に高まったケースもあるという。新しくなったDB群は、新しいサイト(http://mits.nims.go.jp)で今月から一斉に公開されている。

 具体的には、JSTから引き継いだ「高分子DB」、「結晶基礎DB」、「計算物性DB」、「拡散DB」、「三次元状態図DB」、「圧力容器材料DB」の6つに加え、金属材料技術研究所および無機材質研究所時代から蓄積してきた「強磁場工学DB」、「超伝導材料DB」、「基盤原子力用材料DB」、「構造材料DB(クリープ&疲労データシート)」、「鉄鋼材料熱履歴DB」を含めた11種類を公開中。実際はJSTから移管されたDBは全部で10種類あったが、4つは古過ぎるという理由で公開が見送られたのだという。

 これらのDB事業を推進する材料基盤情報ステーションは、約45名の研究者で運営されており、外部の非常勤職員や研究員を含めるとトータル約80名のスタッフが活動している。特徴的なのは、自ら材料試験を行い、データをつくり出していく体制を有していること。セラミックスや複合材料、極低温材料などのいわゆる“新素材分野”については、試験法・評価法の標準が存在しない場合もあるので、国際標準化もにらんだ作業を進めていく。

 また、社会的ニーズを反映させ、実用的に活用されるDBとしての内容を維持していくために、外部の識者らを中心とする材料データベース懇談会と同検討会を新たに組織した。懇談会は、材料工学や高分子、基礎化学、あるいはDB技術の専門家などの大学の教授らを中心にしたもので、長期的な計画を審議し方向付けを行う。検討会の方は各DBが対象とする専門分野の企業ならびに大学の若手研究者で構成しており、具体的なテーマについて話し合ってもらう予定だという。

 さて、JSTから移管された高分子DBの「PolyInfo」だが、質・量ともに大きく刷新して公開された。高分子の名称・構造・物性・モノマー情報・重合データなどを網羅的に収録したもので、データ件数はポリマーで7,900件、モノマーで4,500件となっている。出典文献数は4,200だが、文献調査は1930年代のものから行っており、すでに8,400件からのデータ抽出が終了。あと2年分でカレントの文献に追いつくところまで来ており、データ内容は今後かなり充実することが予想される。まずは、5月に新しいIUPAC命名法に対応させてデータを更新するほか、データ量も1.5倍に拡大させる予定である。

 JSTから移管したPolyInfoの登録ユーザー数は約4,000名で、内訳は6割が企業、3割が大学、1割が国立研究機関となっている。また、全体の2割は海外のユーザーで、5I ヵ国からの利用があったという。

 検索機能は、項目を選択していくだけで検索できる“イージーブラウズ”のほか、代表的な項目を指定して検索できる“ベーシックサーチ”、検索の専門家向けの“アドバンスドサーチ”といったモードがあり、幅広い研究者が利用しやすいようになっている。構造からの検索も、官能基のリストを使った簡便なスタイルから、実際に構造式をスケッチするやり方まで、いろいろなレベルに対応できる。基本的な使い方などはJST時代と大きく変わっていないが、サーバーを更新したこともあって検索速度はかなり向上しているようだ。

 結晶基礎DBの「ポーリングファイル」は、JST時代の二元系のデータだけでなく、新しく多元系のデータが追加されている。これにより、全体のデータ件数は、構成に関する情報が二元系で6,000件、多元系で6,000件、結晶構造に関して同じく2万8,000件と8万件、X線回折データが同2万8,000件と8万件、物性データが同4万2,000件と5万2,000件となっている。

 その他のDBでは、30年前からデータを集め続けている「クリープ&疲労データシート」の評価が高い。これらは10年以上の試験期間を要するものであり、世界的にも最も信頼性が高く権威のあるDBとしての名声が確立しているようだ。ただ、現在は以前に印刷物として発行したものをPDF化したものであり、近い将来にはデータシートの文字や数値を電子化して本格的なファクトDB化を実現したいという。

 なお、それぞれのDBの利用はすべて無料だが、個々にユーザー登録を行う必要がある。ただし、JSTから移管したものについては、以前のIDとパスワードをそのまま利用することが可能。また、計算物性DBと拡散DB、三次元状態図DBの3つは登録なしで利用できる。