アクセルリスとNTTデータが理研GSCにグリッドシステムを導入

薬物分子とたん白質の網羅的バーチャルドッキング、400台のPCつなぐ

 2003.09.17−アクセルリスとNTTTデータは16日、薬物分子と標的たん白質とのドッキングシミュレーションを網羅的に行うグリッドコンピューティングシステムを理化学研究所ゲノム科学総合研究センター(GSC)に導入、稼働を開始したと発表した。これは、GSCたん白質構造・機能研究グループの松尾洋・計算プロテオミクス研究チームリーダーらのグループによるプロジェクトで、医薬品の作用・副作用の分子メカニズムに関する研究に寄与する。ライフサイエンス分野の大規模計算に対するグリッドの有効性を証明するとともに、バーチャルドッキングの技術的発展にも大きな貢献をすると期待される。

 今回のシステムは、アクセルリスのドッキングシミュレーションソフト「リガンドフィット」を、NTTデータのグリッドシステムである「セルコンピューティング」上で稼働させるもの。日本IBMと名城大学、東京工科大学、東亜合成の4拠点のパソコン400台をエクストラネットでつなぎ、実際の計算を走らせる。全体の計算量は、一般的なサーバー1台で約1,400日分に相当する。計算はすでにスタートしており、年内には結果をまとめたいということだ。

 具体的には、松尾リーダーらのグループがMDDRデータベースから治験薬および市販されている実際の薬物分子2,140個を選定。さらに、NCBIのデータベースなどを参照して医薬品と相互作用する可能性のあるヒトたん白質を843種類用意し、これらの薬物とたん白質のすべての組み合わせを網羅的にバーチャルドッキングさせ、各々の親和性に関するデータを得ようというもの。

 これまでのドッキングシミュレーションは、いくつかの標的たん白質に対して多数の薬物候補化合物を当てはめ、薬効のありそうな化合物を絞り込むといったパターンが多かった。今回の研究のように、多数のたん白質ファミリーあるいはプロテオームレベルでドッキングシミュレーションを行い、薬物とたん白質の相互作用に関する知見を基礎研究として広く集めようという試みは世界的にもほとんど例がない。

 この分野のシステムは、現実的には100プロセッサー以上の大規模クラスターを要求するためシステムが高額になることに加え、ソフトを使いこなすノウハウが不足し、手法としての有効性も十分に確証されていないため、ユーザーの関心は高いが普及には手間取っているという事実がある。今回のプロジェクトを通して、ドッキングシミュレーションの技術的蓄積が大幅に進むと期待されるところだ。

 今回利用される「リガンドフィット」は、昨年に米国立がん研究財団と英オックスフォード大学のプロジェクトにおいて、インターネットベースで180万台のパソコンからなるグリッド環境で使用された実績がある。米アクセルリスは、グリッドのシステムを提供した米ユナイテッドデバイス社と技術提携して、このプロジェクトに参画した。

 NTTデータの「セルコンピューティング」もユナイテッドデバイスの技術を基盤にしており、アクセルリス日本法人では今後もNTTデータとの協力体制を築いていく考え。10月には今回のシステムを商品化し、価格体系も整えて、製薬会社向けなどに販売を行っていく。また、NTTデータのセンター設備を利用して計算受託サービスを提供することも検討しているという。

 なお、「セルコンピューティング」では、各パソコンにメンバーソフトがインストールされると、自動的にCPUリソースの余剰部分やハードディスク領域、メモリー領域などを把握し、中央サーバーから処理のためのプログラムとデータを自動的にダウンロードさせて、ユーザーによって許可されたリソース範囲内で処理をスタートさせる。同じデータセットとジョブを3台のパソコンに対して送り出す仕組みで、クライアントマシンの不意のシャットダウンにも柔軟に対応可能。通信はSSL認証で暗号化されており、クライアント内のデータを保護するセキュリティ機能も組み込まれているため、安全にグリッドに参加することができる。