富士通が三次元仮想設計シミュレーターVPSの最新版を開発

試作レスを実現、すべての関係部門が設計段階でモデルを検証

 2003.08.29−富士通は28日、電子機器や機械製品などの新製品開発における試作を無くし、コスト削減や期間短縮を実現する三次元仮想設計支援シミュレーター「VPS V20」(商品名)を発売したと発表した。1996年に社内利用向けに開発し、1999年秋から外販しているシステムで、すでに104社のユーザーがいる。今回の最新版は、最初のメジャーバージョンアップに当たり、ユーザーが自由にカスタマイズができる開発環境を初めて提供するほか、仮想モデルを用いて設計データをさまざまな方面から検証するための各種機能を充実させた。ウィンドウズで利用でき、ソフト価格は基本モジュールで250万円。今後2年間に3,000本の販売を見込んでいる。

 VPSは、富士通の生産技術本部と富士通研究所が共同開発したシステムで、1996年から全社的に活用されてきている。設計部門が作成した三次元モデルを利用し、商品イメージを確認するデザイン部門やマーケティング・商品企画部門、制御プログラムのデバッグを行うファームウエア部門、環境に配慮した製品づくりを考える環境部門、組立性の検証を行う生産技術部門、部品や製品の形状を確認する製造部門、マニュアルを作成するマニュアル部門、顧客向けのプレゼンテーションコンテンツを作成する営業部門、保守手順を確認する保守部門など、製品づくりに関係するすべてのチームが実際の試作モデルを製作することなく、それぞれに問題点を早期に洗い出すことが可能。商品化プロセス全体が最適化され、開発期間やコストを大幅削減することができる。

 実際、ノートパソコンの開発において、試作費用の70%削減を実現した例があるほか、設計段階での検証を進めることで製品品質そのものの向上にも寄与したという。また、新しい製造設備の動作検証や制御プログラムの検証を行うことで、設備開発の効率化にも役立った。さらには、ハードディスク製品では日本で設計しフィリピンで生産する体制をとっているため、VPSのコラボレーション機能がスムーズな立ち上げに貢献したということだ。

 外部顧客には、三洋電機やパイオニア、ペンタックスなどがあり、「設計ミスの7−8割を事前に検出できた」、「試作機の立ち上がり期間が15分の1に短縮された」、「開発期間が2分の1に削減された」、「3つのプロジェクトに適用しただけで投資を回収できた」などの導入効果が出ている。

 さて、VPSでは、肝心の三次元モデルは各CADシステム向けに用意された専用の変換モジュールを通して取り込む。国内の主要なCADのほとんどを網羅しており、VPSで扱うデータはオリジナルのデータの数10分の1のサイズになるので、部品点数の多い複雑な三次元形状でもストレスなく操作することが可能。商品の組み立てや分解、内部機構の動作などをダイナミックに検証することができる。

 今回の最新版の最大の特徴はカスタマイズツールが提供されること。ユーザー独自に設計ルールを組み込んだり、検証作業を自動化したり、既存システムと連携させたりするなど、きめ細かく業務に合わせた使い方が可能になる。API(アプリケーションプログラミングインターフェース)キットのかたちで提供され、価格は基本APIが300万円、応用APIが200万円。

 また、VPSから外部のCAEシステムに対してデータを吐き出す機能も新たに搭載した。まずは、熱流体解析プログラムとして電子機器の熱設計向けに多用される英フロメリックス社のFLOTHERM、電磁場解析プログラムでは富士通のAccufield/Poyntingに対応させる。この連携モジュールの価格は45万円から。強度解析に関しては、簡易プログラムをVPSに内蔵している。

 ケーブル類などの柔軟部品(ハーネス)を再現する「ハーネス検証支援機能」(70万円)も機能強化された。ハーネスの長さと最小曲率半径を指定することで、自重によるたわみを自動的に計算でき、実際の動きをリアルに再現できるようになった。

 さらに、設計段階で製造工程の最適化を検証するための「工程設計支援機能」(200万円)も提供する。作業者の能力に応じた人員配置、使用設備の最適化による効率的な作業工程の割り振りをシミュレーションできる。

 同社によると、VPSに競合する製品は世界的にもほとんど存在しないという。多くの三次元CADは部品の干渉チェック機能などは備えており、また仏ダッソーシステムズのDELMIAなどの生産シミュレーターも存在するが、製品開発の全プロセスをカバーできるのはVPSだけだとしている。このため、同社では海外での普及にも取り組む考えで、近く米国に代理店を設ける。海外市場を意識した時、VPSの最もユニークな点は制御系ソフト/ファームウエア開発を支援する機能であり、そこを突破口にして浸透を図っていく。