2003年CCS特集第2部

− 主要各社の製品戦略 −

 2003.12.04−コンピューターケミストリーシステム(CCS)は、医薬・農薬、遺伝子・バイオテクノロジー、ポリマー、触媒、結晶、半導体、液晶、電子材料、磁気・光学材料、ナノテクノロジーなど、化学技術の幅広い応用分野をカバーする研究開発支援システム。理論や計算に基づいた合理的な研究活動を推し進めるための武器であり、数多くのユニークなシステムが国内外のベンダーから提供されている。CCSは学問や方法論的にもまだ発展途上であり、これからもさまざまな新システムが登場することが期待される。CCS特集第2部では、主要ベンダーの製品戦略を紹介する。

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菱化システム

アクセルリス

インフォコム

NECソフト

ウェイブファンクション

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菱化システム:

 菱化システムは、欧米のユニークなCCS製品の導入を加速する一方、単なる輸入販売の枠にとどまらず、国内でのソフト開発をともなう事業展開に力を入れている。開発元から開発環境の開示や提供を受けて、独自でのアプリケーション開発および機能拡張などに取り組んでいるもの。ユーザー固有の要望に合わせて小回りの聞いたサービスを実施できるのが強みだ。

 同社は生命科学系から材料科学系までの幅広いCCSを取り扱っているが、ビジネスの中心は加CCG社の「MOE」となっている。すでにMOE上での開発に豊富な経験を有しており、遺伝アルゴリズムを用いたQSAR(構造活性相関)やドッキングシミュレーション、外部ソルバーとのインターフェースなど30種類以上の独自プログラム集を公開している。

 また、このほどジュビラント・バイオシス社の化合物データベースの販売権を取得したが、このコンテンツもMOEおよび米ケムイノベーションの化学データベース管理システム「CBIS」で利用できるようにする。CBISは社内に開発環境を整えており、今後はユーザーアプリケーション構築のプロジェクト受注に力を入れる。

 材料系では、CCGおよび米イーオンとの3社共同で新しいパッケージ開発にも取り組んでいる。イーオンが開発中の材料系分子動力学法(MD)エンジンをMOEに組み込み、ポリマーなどの有機材料全般の分子設計に利用できるシステムに仕上げていく。実用性を高める各種解析ツールやひな形などは菱化システム側でも用意する計画である。

 来年3月には製品レベルのベータ版をリリースし、具体的な評価を市場に問う予定だが、市場開発は海外よりも国内を先行させる考え。

アクセルリス

 アクセルリスは、生命科学系の「ディスカバリースタジオ」、材料科学系の「マテリアルスタジオ」の2種類の統合CCS製品を擁するトップベンダーで、プラットホームを以前のUNIXからWindowsへ変更するのにしたがって使いやすさが大幅に向上してきている。アクセルリス日本法人では、顧客満足度向上を目指して組織の強化を推進しており、技術サポートの専門スタッフの拡充を図っている。

 同社では、今月からディスカバリースタジオ(DS)モデリングの最新版1.1と1.2、マテリアルスタジオ(MS)モデリングの最新版3.0をリリースした。

 DSモデリング1.1は、たん白質のホモロジーモデリングを行うためのソリューションで、X線結晶解析機能が新たに統合された。一方の1.2はストラクチャーベースドラッグザデザイン(SBDD)を行うためのもので、構造が判明した標的たん白質に対して薬物候補化合物を高速にドッキングシミュレーションすることが可能。1.1と1.2が揃ったことで、ゲノム創薬の一連の研究プロセスを一貫して支援できるようになった。

 また、X線解析については、データ解析作業の一連のプロトコルを自動化した専用パッケージ「DS HT-XPIPE」を提供する。専門の研究者にとってはリーズナブルなソリューションだ。

 材料科学系のMSモデリング3.0は、材料QSAR(構造活性相関)機能と結晶パッキング予測機能が追加された。これで以前のUNIX版である「CERIUS2」からの主要な機能のほとんどが移植されたことになり、ユーザーの裾野も着実に広がってきているという。このため、同社ではあらためて材料系の開発体制を強化する意向を示しており、新機能の開発にも積極的に取り組んでいく。

インフォコム

 インフォコムは、創薬支援プロセスを体系的にカバーする豊富なシステム製品群を揃えている。とくに今年は、遺伝子やたん白質に関する大量の実験データや文献データなどから有用な知識を引き出すためのマイニングシステムへの需要が高まった。同社が得意としているADME(吸収・分布・代謝・排出)予測分野では、海外での合弁会社設立など積極的な事業展開も目立っている。

 同社は、バイオインフォマティクスから新薬の探索研究、開発・臨床段階まで、それぞれの分野で優れたパッケージソフトやサービスを提供している。フルサポートできる総合力を強みとするのが同社の戦略である。

 とくに今年については、データマイニングソリューションの販売が好調だったという。バイオ分野の情報の洪水の中から、いかにして早く正しいデータを拾い上げてくるかが研究者の悩みの種となっているためだ。米オムニビズの「OmniViz」は、生物および化学データ、各種実験解析またはシミュレーション結果、文献情報、特許情報などのあらゆるタイプの大量のデータを可視化しマイニングするための統合ツールで、同社にとって今年最大の戦略商品となった。

 また、米アリアドネの「パスウェイアシスト」は、たん白質と遺伝子機能との相互作用を調べるための文献マイニングソフトで、同種のソフトの中でも大幅な低価格で話題になっている。

 一方、ADME分野では受託試験機関の米アブソープションシステムズと合弁で米国にライトハウスデータソリューションズ社を設立した。10月には、米食品医薬品局(FDA)で承認された医薬品のADMEデータをあらためて試験したデータベース「ADMEインデックス」を製品化し、全世界で発売している。

NECソフト

 NECソフトは、理化学研究所や九州大学などとの共同プロジェクトを相次ぎ発表するなど、ライフサイエンス分野での活発な展開が目立っている。2001年4月に設立した「VALWAYテクノロジーセンター」における活動が着々と結実しつつあるもので、来年に向けてはさらに事業化を見据えた展開に拍車をかけていく計画である。

 理研と共同開発したのは、シロイヌナズナの突然変異体データベース「アクティベーション・タグライン・データベース」で、9月からインターネット上で一般公開が行われている。半分以上が外国からの利用であるなど、国際的にも注目されているようだ。新しいデータを登録・蓄積していく仕組みも内蔵したシステムとなっており、今後のデータの充実も期待される。

 九州大学とは、たん白質の結晶化機構を解明するための装置開発を行った。たん白質の立体構造を知ることはポストゲノム時代の最重要な研究課題の1つだが、X線構造解析装置にかけるための結晶を短時間に得ることが難しいとされてきた。今回の共同研究によって結晶化機構が明らかになれば、世界のバイオサイエンス研究界への貢献度はきわめて大きい。

 一方、今年の2月にカリフォルニア大学アーバイン校のフィリップ・シュー教授と共同で製品化した「セマンティックオブジェクツ」に関する事業展開も着実に進んできている。すでに、経産省プロジェクト「バイオ・IT融合による多元たん白質解析装置」の構成要素の1つであるバイオ用統合データベースシステムの基盤技術に採用されているほか、来年3月までにNECと共同で製品化するガン病理画像診断支援システムにも組み込む予定。ガンを早期診断するエキスパートシステムとして働くことになる。

ウェイブファンクション

 ウェイブファンクションは、分子軌道法をベースにした使いやすい分子モデリングシステムを開発しており、10月末には最新版の「SPARTAN04」をリリースした。ウィンドウズで利用できる本格的な分子設計支援システムとして国内にもファンが多い。来年にかけてさらに機能が順次追加されていく予定で、ユーザー層拡大への期待が広がっている。

 SPARTAN04は、研究の生産性を向上する工夫が凝らされており、基本の分子軌道法解析エンジンが高速化しただけでなく、代表的な化合物や部分構造に対してあらかじめ計算した結果を収録したデータベースが新たに用意された。これを参照することで、計算を行う時間そのものを削減することが可能。

 現在はWindows版だけだが、来年にはLinux版やマッキントッシュ版、さらにはUNIX版を製品化する予定もあるという。

 SPARTANは使いやすさから教育用途に利用される例が多い。このため、同社では学生版を来春に正式発売する計画で準備を進めている。学校向けに10本単位で販売していく予定で、価格は32万円。これまでは、教育用でも企業向けなどのフル機能のCCSが使われてきただけに、学校側の費用負担も大きかった。今回、低価格で教育専用の学生版が提供されることで、需要が一気に広がる可能性がある。

 同社では、CCS教育の支援活動の一環として、開発者のウォーレン・ヒーリー名誉教授(カリフォルニア大学アーバイン校)が来日して教育関係者向けに行う講習会を5年ほど前から続けてきている。すでに50−60校で実施した実績があり、最近ではかなり手応えを感じているということだ。