富士通と富士通研究所がたん白質解析の専用サーバーを開発

確率分割法で高並列処理を実現、実証実験を開始

 2003.11.06−富士通は5日、富士通研究所と共同でたん白質の立体構造シミュレーションを超高速で実施する専用サーバー「バイオサーバー」(開発コード名)を開発、実証実験に入ると発表した。バイオインフォマティクス分野での共同研究相手であるゾイジーン、さらには新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)プロジェクトを通してシステムの実用性を評価し、来年以降に製品化の検討に入っていく。プロセッサー(CPU)の数に比例した並列高速処理を実行できるのが特徴で、計算で60年以上かかっていた処理、あるいは実験で1ヵ月程度かかる解析を12日間で行うことができるという。

 今回開発した「バイオサーバー」は、CPUに富士通の組み込みプロセッサーである「FR-V」を採用しており、1ラックに最大1,920個搭載することが可能。これは、最大8命令を同時に実行できるVLIW(ベリーロングインストラクションワード)型プロセッサーで、浮動小数点演算でも4命令の同時実行が可能であり、1ワットという低消費電力で1.33ギガFLOPSのピーク性能を発揮する。CPU当たり256メガバイトのメモリーを積んでおり、OS(基本ソフト)としてはアックス(本社・京都市、竹岡尚三社長)が製品化した組み込み系Linuxである「axLinux」を採用している。

 三菱化学の100%子会社であるゾイジーンとの共同研究で使用する1号機は1,920個のFR-Vを装備しており、この構成での理論最大性能は2.5テラFLOPSに達する。NEDOプロジェクトで使用する2号機は1,280個のFR-Vを搭載した構成となっている。

 とくに、たん白質を対象とした分子動力学法(MD)シミュレーションを高速に実行することを意識して開発されており、アルゴリズムとしてスタンフォード大学のビジャ・パンデ助教授(http://www.stanford.edu/dept/chemistry/faculty/pande/)らが開発した“確率分割法”に適したハードウエアとなっている。

 一般的なMD計算では、たん白質を周期境界条件で区切って“空間分割”によって並列化を行うことが多いが、この手法ではCPU間通信がボトルネックとなり、並列度をあまり上げられないという問題があった。しかし、今回の“確率分割”では、各CPUに薬物分子とたん白質とのクラスター構造を与え、周囲の水分子の状態などの計算条件を変えたシミュレーションを並列で実行させる。計算結果をフロントエンドマシンに一旦集めて評価し、溶媒中でのたん白質構造の揺らぎを探索していくという手法である(写真参照)。このため、バイオサーバーの各CPUは独立した計算を行っており、通信のボトルネックは発生しない。また、CPU数が増えるほどに直線的に性能が向上することになる。

 このバイオサーバーが製品化された場合の価格は未定だが、組み込み型のCPUであるため、CPU自体が低価格であることに加え、CPU間通信をつかさどるクロスバースイッチのような高価なハードウエア機構を必要としないため、PCクラスターなどに比べて高いコストパフォーマンスを実現できると期待される。

 今回の実証実験では、MDソフトとしてグローニンゲン大学で開発されたオープンソースの「GROMACS」(http://www.gromacs.org/)をバイオサーバーに最適化して利用する。実験データと計算結果を比較し、計算精度と計算時間が実際に実用域に達するかどうかを確かめる。ゾイジーンとの共同研究では、来年早々にもその評価を下したい考えだ。通常のMD計算ではフェムト秒ステップで数ナノ秒程度までの計算が限界だが、今回は高速化によってマイクロ秒オーダーまでのシミュレーション実行を目指しており、目標にしている誤差2キロカロリー以内を達成できれば、実際に計算で実験を置き換えることが可能になるという。