富士通とFQSが国産で初のADME特性予測ソフトを製品化

独自の相関モデル作成機能を装備、90%以上の予測精度を達成

 2004.01.08−富士通と富士通九州システムエンジニアリング(FQS)は、国産で初めてのADME(吸収・分布・代謝・排出)/毒性予測システムを開発、「ADMEWORKS」(アドメワークス)の名称で販売を開始した。医薬候補化合物の分子構造から薬理活性や薬物動態、毒性の有無などをコンピューター上で判定してバーチャルスクリーニングに役立てることが可能。ユーザー自身が手持ちのデータセットを使って予測モデルを数学的に作成することもできる。いろいろなモデルで常に90%以上の予測精度を達成しており、初の国産ソフトとして大きな反響が期待される。

 新薬開発では、体内での吸収性、または代謝や毒性の問題で、開発フェーズが進んだ段階で中断に追い込まれるプロジェクトが少なくないといわれる。そこで、候補化合物の探索の時点でこれらのADME特性を評価することによって、以降のプロジェクトの確度を高めようという考え方が広まってきている。

 現在、ADME特性予測システムはすべてが欧米で開発されたソフトで、富士通自身もそれらのソフトの販売を長年手がけてきていた。今回のADMEWORKSは、その事業経験をベースに、実際のユーザーの要望を吸い上げて独自に開発を進めてきたもの。具体的には、既存ソフトは内蔵されている予測モデルが各ユーザーのターゲットにしている化合物群とマッチしていないために予測精度が不十分だったり、モデル作成を行う機能を持つソフトでもその操作法が難しく使いこなせなかったりするなどの問題があったという。

 今回の新製品は、予測だけに特化した「ADMEWORKS」と、モデル作成に特化した「ADMEWORKSモデルビルダー」の2つに分かれており、それぞれに使いやすさを追求したシステムとなっている。

 予測を担当するADMEWORKSはウェブ環境で利用でき、クライアントはブラウザーだけで操作することが可能。予測モデルとして、発がん性(データソースは米国立毒性プログラム(NTP))、エイムズ変異原性(データソースは未公表)、P450代謝(データソースはクロアチア・ザグレブ大学のレンディク教授らが収集したものをFQSがまとめたもの)、および溶解性予測モデルが提供されるので、購入後すぐに使用することができる。

 モデルは順次増やす予定で、P-Glycoproteinなどのトランスポーター関連予測モデルや染色体異常試験モデル、生分解性・生体蓄積性などの環境関連モデルも提供していく。データソースを確保するため、すでに複数の内外の研究機関との提携を進めているようだ。

 使用法は、ブラウザー上で構造式を描画し、1つずつ予測を行う対話式のほかに、バッチ式の処理が可能。複数のADME特性/毒性/物性を一度に予測し、大量の候補化合物に関する評価リストを一覧表にまとめることなども簡単に行える。予測結果はエクセルおよびSDファイル形式で書き出すことができるので、ケミカルスプレッドシートソフトを利用すればいろいろな形でデータ活用を図ることが可能。

 ADMEWORKSのソフト価格は買い取りで1,200万円、年間ライセンスの場合は400万円。ともにクライアント数は無制限で、インターネット/イントラネットを介して社内の研究者が自由に活用することができる。

 一方、モデルビルダーは、手持ちのデータセットを使ってADMEWORKS用の予測モデルを構築するためのソフト。既存ソフトは相関式を作成する際にニューラルネットワークや決定木などの単純分類学的な手法を使うものが多いが、モデルビルダーでは線形判別関数および線形重回帰モデルを用いた数学的手法を採用している。コアになっているデータ解析エンジンはペンシルバニア州立大学のピーター・ジャース教授らのグループが開発したADAPT(http://research.chem.psu.edu/pcjgroup/adapt.html)で、構造活性相関(QSAR)解析ツールとしても有名なもの。富士通は1980年代後半にメインフレーム用のソフトとしてADAPTを販売した経験もあり、今回もジャース教授との正式な契約のもとにADAPTをモデルビルダーに組み込んでいる。ニューラルネットワークなどを使った場合と異なり、科学的に意味のある形で相関式を導き出すことが可能になるとしている。

 また、解析用の化合物パラメータを創出するモジュールを500種類以上内蔵しているほか、化学データ解析に必要となるさまざまな解析・表示機能を備えている。ただ、ADME関連のモデル作成に特化しているため、汎用のQSARツールよりも使いやすいことが特徴だという。Windows用のソフトで、価格はシングルユーザーで買い取りが600万円、年間ライセンスが200万円となっている。こちらの出荷は今年の3月からとなる。

 富士通とFQSでは2年間で2億円の売り上げを見込んでいるが、開発はFQSの子会社であるFQSポーランドで行われているため、すでに英語版も存在しており、年内には海外での販売にも取り組む計画。北米は富士通のルートで、欧州はFQSポーランドの販路を活用する模様である。