プロウスサイエンスがユーザーミーティングを開催

医薬品研究開発支援のポータルサイト、薬物特性予測技術などをデモ

 2004.03.10−医薬品研究開発のためのコンテンツプロバイダーであるスペインのプロウスサイエンスは、3日に東京、5日に大阪で「異なる知的専門分野から多次元的知的空間を見据えた洞察と創造」というテーマでユーザーミーティングを開催した。あらゆる関連情報に一元的にアクセスできるようにするポータルサービス「インテグリティ」の新機能などが紹介されたほか、任意の化合物が医薬品として望ましいあるいは好ましくない特性を持つかどうかを構造式から推定する新サービス「バイオエピステメ」が正式にアナウンスされた。また、音声データを自動的にインデックス化して、マルチメディアコンテンツを的確に検索できるようにする独自技術“MAVS”のデモンストレーションも目を引いた。

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 「インテグリティ」(http://integrity.prous.com)は2001年から開始されたサービスで、インターネットで利用できる契約式のポータルサイト。年間300以上開かれる大小の学会で発表された情報や、年間1,500誌以上の学術雑誌、日米欧をはじめとする世界11の特許庁からの関連情報、監督官庁からの最新情報、広範囲な企業情報などをもとにした医薬品研究開発のためのトータルコンテンツサービスを提供している。アクセスできる情報量は、2004年2月現在で18万8,000件の生理活性物質(93%が化学構造式情報を持つ、残り7%はワクチンや抗体など構造情報を持たないデータ)、2,300のゲノム情報、1万500スキーム・5万の中間体を収録した有機合成情報、37万データポイントの実験薬理データ、15万500データポイントの薬物動態/代謝物データ、参照文献数1万3,400の臨床試験情報、800社におよぶ企業データ、67の疾病分野を網羅した疾病概説情報、5万8,000件の特許情報、44万7,000件の文献情報−となっている。ここ数年はとくに薬物動態関係や臨床試験関係の情報量の増加に力を入れているという。

 インテグリティでは、この膨大な情報が「薬剤/生物活性化合物」、「ジェノミックス」、「文献」、「特許」、「有機合成」、「実験薬理学」、「薬物動態/代謝」、「臨床治験」、「企業と市場」、「各疾病の概説」−の10項目に大分類されており、通常のキーワードのほかに化学構造式や遺伝子配列でも検索を行うことができる。

 例えば、がんに関する発症部位や性別・年令などの統計データを調べたあと、肺がんに関する治療薬や治験薬をその作用メカニズムに注目して検索し、それぞれの化合物情報や反応情報、実験薬理データを検索したり、臨床開発状況およびそれを手がけている企業情報を調べたりすることが簡単に行える。操作はウェブブラウザーだけで、直感的にわかりやすく、すべての情報が相互リンクされているため、他の分類項目に収録されている関連データにすぐさまジャンプすることが可能。

 年内に追加される予定の新機能としては、計算化学ディスクリプター(記述子)と実験物理化学特性を統合した“インテグリティ・データセンター”のほか、天然物由来の化合物データ、疾病発生にかかわる標的と疾病原因ファクター(受容体、酵素、イオンチャンネル、神経伝達経路など)を確定する研究に役立つ“標的知識分野”−などがある。

 インテグリティのライセンスは、指名ユーザー、同時使用ユーザー、サイトライセンス、コーポレートライセンスなどさまざまな選択肢があり、カスタマイズなどの特別な要望にも応じることができるという。

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 次に紹介されたのは「バイオエピステメ」である。これは、インテグリティに収録しているデータベースを基礎データとしてQSAR(構造活性相関)解析を行い、高精度の相関式をつくり上げたうえで、任意の化合物の特性予測に利用しようというもの。演算ディスクリプター、形態ディスクリプター、副次構造ディスクリプター、複数結合ディスクリプター、立体ディスクリプター、電位ディスクリプターなどの多数のディスクリプターを利用しており、構造式からその化合物の薬らしさ(ドラッグライク)や薬物活性、薬物としての作用メカニズム、ADME(吸収・分布・代謝・排出)/毒性を定量的に予測することが可能。

 相関式と予測モデルの構築に当たっては、インテグリティの豊富な情報量を生かすとともに、精密なディスクリプター計算(この部分でケミカルコンピューティンググループのMOEが使用されたようだ)、データマイニングによる正確なアルゴリズム生成−などが行われたという。さらに、プロウス社のラボで実際に化合物を合成・試験し、予測結果が正しいかどうかを実験的に確かめ、その結果をフィードバックしている。講演の中では、いくつかのベンチマークが示されたが、いずれも90%以上の高い予測精度を達成している。

 現時点ではまだプロトタイプの段階で、製品化の時期や提供形態などは未定。予測できる特性もさらに増やしていく。デモンストレーションでは、インテグリティと同様のインターネット上のサービスとして示されたが、パッケージソフトの形態で販売する可能性も検討されているようだ。

 最近では同様の市販ソフトもかなり出回り始めているが、実験薬理の実際の実験データを反映させて正確さを向上させている点や、医薬品としての作用メカニズムを予測できる点などでユニークな製品となりそう。

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 最後に紹介されたのは、プロウスが独自開発したマルチメディアコンテンツ検索技術“MAVS”(マルチメディア・オーディオ・ビジュアル・サーチ)。同社では研究者に役立つビデオ配信サービスとして「ライフサイエンスチャンネル」(http://www.lifescichannel.com)を無償で提供しており、スウェーデンのカロリンスカ研究所やオランダのアムステルダム自由大学、ハーバード大学医学校、米食品医薬品局(FDA)、欧州医薬品審査局(EMEA)などの協力で、さまざまな学会発表などのビデオ映像(または音声)とプレゼンテーションスライドを無料コンテンツとして配信している。

 MAVSは音声の中からキーワードを自動的に抽出してインデックス化する機能があるため、これまでは不可能だった「ビデオコンテンツの検索」が可能になる。デモンストレーションでは、「インフルエンザ」というキーワードを入力すると、「インフルエンザ」という語が発音されたコンテンツ一覧を取得し、しかもそのコンテンツで講演者が「インフルエンザ」と発言した部分からビデオを再生できることが示された。今年の夏ごろには、ライフサイエンスチャンネルの中でMAVS検索が行えるようになるという。

 現在のMAVSは音声をインデックス化するものだが、講演の中では米商務省標準技術研究所(NIST)と米国防省高等研究計画局(DARPA)が後援した「TREC2002」というイベントでのコンペティション結果が示された。プロウスのMAVSはIBMやカーネギー・メロン大学などのグループを抑えて1位を取ったが、その際に人・物・場所などの映像をもとにビデオ検索する課題が与えられたことから、将来的にはMAVSで画像をキーにした検索が可能になるのかもしれない。

 また、MAVSには概念検索の機能も組み込まれており、あるキーワードに対してその周辺の情報までも同時に引き出すことが可能。この機能は、今後インテグリティに組み込まれる予定だとされている。

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 インテグリティとサイエンスチャンネルは、英語以外の言語では日本語だけがサポートされており、日本人にとってはうれしいところだ。なお、プロウス社の商用サービスおよびデータベース製品の国内総代理店はユサコ(http://www.usaco.co.jp)が務めている。