アスペンテックジャパンがユーザーミーティングを開催

マッキリン社長基調講演、EOMで今後10年に大きな収益向上のチャンス

 2004.05.15−プロセス産業専門のIT(情報技術)ソリューションベンダーであるアスペンテックジャパンは、5月12日と13日の両日、東京・品川のホテルラフォーレ東京で「第9回日本ユーザーグループミーティング」を開催した。参加者は約300名で、2日間に約60のセッションが行われたが、そのうちの26件はユーザー企業からの発表となり、具体的な活用事例と導入効果が来場者の関心を集めた。初日の基調講演では、米アスペンテクノロジー社のデビット・マッキリン社長兼CEOが新ソリューションとしてのEOM(エンタープライズオペレーションズマネジメント)のコンセプトを紹介、「プロセス産業はEOMを活用することで、今後10年間に大きな収益向上のチャンスがある」と述べた。

        ◇      ◇      ◇

 冒頭で、マッキリン社長は「プロセス産業は5つのチャレンジにさらされている」と切り出した。「従来の在庫中心のスタイルから需要に合わせて生産するスタイルに変わりつつある。しかも、製品数が以前の3倍に増えているにもかかわらず、納品までのサイクルタイムは週単位から日単位、時間単位へと短縮している。これに対応するためには柔軟性のあるオペレーションが必要だ。第2は中国やインドなどの台頭で、プラントのコスト効率を一層高めることが求められる。第3はスペシャリティ製品へのシフトで、新技術でオペレーションを革新することが必要。次は複雑さが増していることで、現状を的確に理解し適切な一手を打つために情報の可視性を高めることが重要になっている。最後は、ITのコストを削減しようというチャレンジだ。これには、標準技術を採用することがポイントになる」と指摘した。

 つまり、プラントのオペレーション領域におけるシステム統合化が重要だというのがマッキリン社長の意見。「プラント内の温度・圧力・流量などの情報は1980年代に登場したDCS(分散型制御システム)によって制御・自動化されるようになり、売り上げ・コスト・収益などの企業情報は1990年代に登場したERP(エンタープライズリソースプランニング)によって活用が図られ、ビジネスの変化に柔軟に対応できるようになった。しかし、生産スケジューリングや製品の品質・信頼性・生産性、単位コストの最適化など、オペレーションの変化に対応するためのIT領域はこの20年間にバラバラな技術が導入されてパッチワークのような状態であり、当然のことながら上位のERPや下位のDCSとの情報統合化も図られていない」と論じた。

 EOMは、プラント/プロセスのシミュレーションモデルを中核にしてオペレーション領域のシステム統合化を実現するコンセプトで、各種のプロセスエンジニアリング/シミュレーションツール、高度制御/オンライン最適化ツール、SCM(サプライチェーンマネジメント)などの多くの製品群から構成されている。同社ではこれを、石油精製・化学・製薬・オイル&ガスなどの業界別ソリューションとして体系付けている。

 また、EOM製品群やERP/DCSサイドから必要な情報を吸い上げて可視化し、データ分析や意思決定を助けるのが「アスペンオペレーションズマネジャー」。リリースして1年あまりで、すでに45社/100以上のプラントに採用されたという。EOMの威力を十分に生かすうえでたいへん重要なフロントエンドツールである。

 マッキリン社長は、「これからの10年、EOMでERPとDCSのギャップを埋めることで、プロセス産業各社には大きな収益向上のチャンスがある」と述べて講演をまとめた。

 講演後のCCSnewsとのインタビューでマッキリン社長は、実際のEOMの導入事例として、「スタットオイル(北欧の石油精製企業)はアスペンテックの技術を広く採用してくれており、EOMによって現時点で50%以上の収益向上を達成している。また、BPケミカルのたった1つのプラントで2,000万ドルの収益改善をもたらした事例がある」と紹介した。

 さらに、オペレーションズマネジャーの最新版が9月にリリースされ、マイクロソフトのエンタープライズポータル製品である「シェアポイントポータルサーバー」(SharePoint Portal Server)との統合を図る計画を明らかにした。マイクロソフトのオフィスソフトやデスクトップとの融合度が高まることになるため、例えばプロセスモデルやプラント運転データなどの情報を、企業単位・部門単位などで簡単に共有できるようになるという。「意思決定のスピードを上げるためには情報の統合をさらに進展させることが重要であり、マイクロソフトとの連携がそれに大きく寄与できる」とマッキリン社長。同社には20ファミリー/100種類以上の製品があり、オペレーションズマネジャーで順次統合化を図って使いやすくしていくとした。

 日本企業に対しては、今回のユーザーミーティングを契機に、EOMソリューションの積極的な提案活動を進めるが、今年の10月10日から15日までフロリダ州オーランドで開かれるアスペンワールド2004を重要なステップだと位置づけている。「EOMの全ぼうを詳しく理解していただけると思うし、2,000人を超える世界中のユーザとの情報交換・交流の機会もあるので、ぜひこのイベントにお迎えしたい」とした。

 なお、マッキリン社長はインタビューの中で、新分野として医薬品の研究開発を支援するADME(吸収・分布・代謝・排出)予測システムを開発中であることも明らかにしている。バイオ・製薬企業と共同研究中のプロジェクトで、「薬が効くかどうかをシミュレーションで確かめられるので、新薬開発の時間と費用を短縮できる。2年ぐらいかかると思うが、アスペンテックのシミュレーション技術を生かせる新しい市場だととらえている」という。こちらの行方も注目されるところだ。