Elsevier MDLが次期主力製品の「Isentris」を開発

業界標準のアプリケーションプラットホーム、ユニークな開発環境備える

 2004.09.29−Elsevier MDL(エルゼビアMDL)は、統合化学情報管理システムの次世代システムである「Isentris」(アイセントリス)を開発した。現行の「ISIS」の後継製品となるが、5年程度は両製品を併存させ、徐々に移行を進める計画。今年末にバージョン1.0をリリースする予定で、年内は既存ユーザーへのデモや紹介を中心とし、来年以降に本格的な販売活動に入る。IT分野の業界標準に完全準拠していることが最大の特徴であり、まずはISISを補完するアプリケーションから普及を図っていく。

 次期主力製品のIsentrisは、9月8日から10日まで東京コンファレンスセンター(飯田橋)で開催された「2004年度MDL日本ユーザー会」において、ベータ版として国内で初公開された。ITの業界標準技術に基づいて、医薬品研究開発の幅広いフェーズを総合的に支援するためのデータベースアプリケーションを開発・運用・管理するためのプラットホームであり、「MDL Draw」と「MDL Base」、「MDL Core Interface」、「MDL Direct」−の4製品から構成されている。

 ただ、現在のISISをすぐに置き換える製品ではなく、Elsevier MDLでは4−5年をかけてISISのフル機能に追い付くように徐々に機能拡張を進める計画。このため、各ユーザーはISISで既存システムを動かしつつ、新しいアプリケーションから徐々にIsentrisに移行させるというパターンになりそうだ。Elsevier MDLでは、プレート管理の「プレートマネジャー」など、Isentris対応のアプリケーションパッケージを独自開発して提供するほか、Isentrisを標準的なプラットホームとして広く普及させ、“Isentrisアライアンス”というかたちでパートナーベンダーのアプリケーションを幅広く取りそろえていく。すでにいくつかのベンダーと交渉中で、来年後半にはパートナーのアプリケーションが具体的に登場する予定だという。

 Isentrisのライセンス体系や価格はまだ未定だが、少なくともシート制からユーザー制に変わることは間違いないようだ。ユーザー会のデモでも、ログインするユーザー権限によって画面や機能が変化する様子がみられた。

 さて、Isentris全体はアプリケーション/ユーザーインターフェース層、中間層、データベース層からなる三層アーキテクチャーで構成されており、ユーザー管理やロジカルな処理はすべて中間層で行われる仕組み。利用者/管理者/開発者のいずれにとっても使いやすくなったことがポイントになっている。

 とくに、エンドユーザーからみた操作性が大きく進歩した。画面は全体的にウェブブラウザーによく似たつくりで、利用者が自分自身でフォームをカスタマイズすることが可能。利用できるデータベースを選択すると、分割されたフレームにフィールドの一覧がツリー表示されるため、その項目名をブラウジングフレームにドラッグ&ドロップするだけで見たいフィールドだけを自由に選んで、ボタン1つで一覧表示させることができる。また、履歴を表示するフレームを使って、異なる検索条件で検索した結果同士をマージさせたりすることも簡単に行える。履歴全体を保存することもできるので、それを他の研究者と共有することも可能である。

 中間層はJ2EE(Java2 エンタープライズエディション)を基盤として、共通なAPI(アプリケーションプログラミングインターフェース)を備えており、コードやビジネスロジックをアプリケーション間で共有・再利用することができる。MDLコアインターフェースのドメインサービスを利用すると、例えばユーザーアプリケーションから「プレートマネジャー」の機能を自由に呼び出すことが可能になる。また、柔軟性のあるインテグレーションスキーマを自由に作成することもでき、“データソースビルダー”機能によってテーブル間のデータネットワークの階層構造を簡単に設定することが可能。テーブルのアイコンをコネクターでつなぐだけであり、利用者側からみると、MDL Baseでデータソースを選び、どのテーブルをトップにするかに応じてテーブルのコネクションが動的に切り替わってくれる。これは研究者にとっては非常に便利だ。

 一方、Isentrisの開発環境はマイクロソフトのビジュアルスタジオと同じ感覚で利用できるため、ドットネットに慣れた開発者なら違和感なく習熟することができるだろう。開発者権限でログインすると、自動的にデザインモードがオンとなり、フレーム内に利用できるコンポーネントの一覧があらわれる。

 とくにユニークなのが独自の“ビジュアルワイヤリング”機能で、プログラムコンポーネントに張り付いた入出力のピンを結びつけるだけで、簡単に画面開発を行うことが可能。例えば、検索結果として化合物名を表示するコンポーネントと、インターネットのURLを指定するコンポーネント、インターネットエクスプローラーのコンポーネントを“ビジュアルワイヤリング”すると、データベース検索を行うと同時にその化合物名でインターネットにアクセスし、関連する電子ジャーナルを瞬時にブラウザー表示させることなどができる。ブラウザー自体がコンポーネント化されているので、別ウィンドウが開くようなことはなく、インターネット画面がMDL Baseのフレーム内に表示されるので非常にスマートである。

 Isentrisバージョン1.0では、ドットネットフレームワークのコンポーネントをIsentrisの開発環境に自由に呼び出して利用することができるが、次のバージョンでは逆にドットネットアプリケーションの中にIsentrisコンポーネントを組み込むことができるようにするという。つまり、開発環境が完全に業界標準と融合するわけで、ユーザー開発だけでなく、幅広いパートナーの開発者を引き寄せる呼び水になるといえそうだ。