アドバンスソフトが文科省FSISベースの商用版パッケージ発売
プロジェクト折り返しでいち早く商用化、たん白質・流体・構造解析など6本
2004.11.26−アドバンスソフト(本社・東京都新宿区、小池秀耀社長)は25日、文部科学省ITプログラム「戦略的基盤ソフトウエアの開発」(FSIS)プロジェクトの成果物を正式に商用化し、販売を開始したと発表した。世界的にみても先端的な機能を持つ6種類のソフトウエアを製品化したもので、合わせて初年度に300本、次年度600本の販売を見込んでいる。FSISのサイトからフリー版もダウンロードできるが、使いやすさを重点に置いた機能強化と専門的なサービス・サポートで差別化を図っていく。
FSISプロジェクトは2002年度から5ヵ年計画でスタートしたもので、大学や国の研究機関で開発されたソフトを実用化することを目指し、当初から商用化を前提としたプロジェクト運営が行われている。アドバンスソフトは、ゼクシスと日立製作所、富士総合研究所などが出資している企業で、プロジェクトスタートに合わせて設立され、プロジェクトでの開発自体にも参加している。この1年ほどはフリー版をベースにした受託解析・受託開発の個別案件に積極的に取り組んでおり、すでに50件以上の実績を持っている。
ただ、プロジェクト成果物の商用化権は同社の独占ではなく、関心のある向きには広く門戸が開かれており、将来的には別のベンダーからも商用版が提供される可能性はある。
さて、今回、正式に製品化されたのは、FSISの次世代量子化学計算研究グループの成果をベースにした「Advance/ProteinDF」(年間使用料105万円、来年1月出荷予定)、たん白質−化学物質相互作用解析研究グループに基づく「同/BioStation」(同105万円、12月15日出荷)、ナノシミュレーション研究グループに基づく「同/PHASE」(同105万円、12月15日出荷)、次世代流体解析研究グループに基づく「同/FrontFlow/red」(年間使用料105万円、来年1月出荷予定)と「同/FrontFlow/blue」(年間使用料105万円、来年1月出荷予定)、次世代構造解析研究グループに基づく「同/pSAN」(同63万円、12月15日出荷)−の6本。
「同/ProreinDF」は、たん白質の全電子計算を可能とする世界初の密度汎関数法(DFT)ソフトウエアで、独自の擬カノニカル局在化軌道法(QCLO)によって最適な初期構造を選択することが可能。巨大分子であるたん白質をシミュレーションするための効率の良い計算手法を実現しており、100残基規模の金属たん白質全体の電子状態を精密に評価することができる。
「同/BioStation」は、独自のフラグメント分子軌道法(FMO)を用いて、たん白質と低分子化合物との複合体の相互作用を解析する機能を持つ。分子をフラグメント(残基、低分子など)に分割し、フラグメント単独およびダイマーに対する分子軌道計算結果を適切に取り扱うことで、分子全体のエネルギーなどを高精度にシミュレーションできる。ProreinDFよりも大きなたん白質を量子化学的に解析することができるが、こちらはたん白質に結合する薬物分子とのドッキング解析を主体とするアプリケーションとして提供される点で違いがある。
「同/PHASE」は、材料系に対して擬ポテンシャルとDFTを用いて電子状態の第一原理計算を行うソフト。ナノデバイスやプロセス開発において、表面・界面の電子状態解析、誘電物性解析、反応経路・障壁エネルギー計算、表面拡散、触媒反応などの解析が可能。ナノスケールの物理現象解析を統合的に支援できる。アクセルリスのCASTEPと競合するポジションのソフトだという。
「同/FrontFlow/red」と「blue」は、複合連成問題やマルチスケール問題に対応した次世代流体解析ソフトで、とくにラージエディシミュレーション(LES)を用いた高精度な乱流解析や一億格子点規模の大規模解析を得意としている。乱流・燃焼・噴霧・混相・騒音・固体応力といった複雑な現象が混在する流れ場を扱うことができる。「red」は豊富な物理モデルを搭載しており、化学反応、燃焼、混相流解析に最適。「blue」は水力機械の性能評価、空力騒音予測などでの実績が豊富である。
「同/pSAN」は、静的弾性解析と固有振動解析を取り扱うことができ、幾何学的非線形やアセンブリ問題にも対応可能。最大の特徴は超並列計算環境を駆使できることで、NASTRAN用の入出力データとの互換性があるため、大規模問題の超並列計算用途への採用が期待される。FSISの次世代構造解析研究グループでは、フリーメッシュ法(FMM)、粒子法、有限要素法(FEM)、分子動力学法(MD)といった複数の計算手法を用いて解析するシステム「NEXST」の開発に取り組んでいるが、その中からFEMソルバーの「pSAN」が先行して商用化されることになった。
FSISでは、このほかに統合プラットホーム研究グループとHPCミドルウエア研究グループが活動しているが、アドバンスソフトでは当面はこれらを特定ユーザー向けの開発プロジェクトにおけるツールおよび基盤技術として採用していく予定だという。
フリー版と商用版の違いだが、今回のバージョン1についてはバグフィックスと細かな機能追加にとどまっており、技術サポートが大きな差別化のポイントになる。ただ、一般ユーザーが自分でフリー版をダウンロードして環境設定まで行うのは敷居が高いという現実はある。アドバンスソフトでは、FSISの各グループに開発メンバーを送り込んでおり、プロジェクト終了後は開発者を引き上げて、社内で継続的にソフトを発展させるための体制づくりも着々と進めてきている。
国家プロジェクトとして、中盤で成果物が商用化されるのは異例ではあるが、プロジェクトが実用化を最大の目標としているために、少しでも早く市場での評価を問いたいという狙いがあるようだ。ソフトの先端性が利用者にどう受け入れられるか注目される。将来的には、これら国産先端ソフトの海外への波及・浸透も目指してほしいところだ。