米アスペンテック:スティーブン・ゲインズ副社長インタビュー
サプライネットワークの迅速化を実現、2タイプのSCMソリューション提供
2004.12.02−プロセス産業専門のITベンダー最大手である米アスペンテクノロジー(アスペンテック)のサプライチェーンマネジメント(SCM)戦略が新しい局面を迎えている。同社は、20社あまりのベンダーを吸収合併してできた膨大な製品群を統合する新ソリューション体系“aspenONE”を発表しているが、その中でもSCM関連は基幹製品の位置を占める。同事業のトップを務めるスティーブン・K・ゲインズ副社長に新体系における事業戦略を聞いた。
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aspenONEは、ERP(エンタープライズリソースプランニング)とDCS(分散型制御システム)の間をつないで、プロセス産業のビジネスの全体最適化を実現する“EOM”(エンタープライズオペレーションズマネジメント)を具体的に実装するためのソリューション。SCMの観点からみると、計画系のERPと実行系のDCSをサプライチェーンで結ぶというイメージになる。
「ソリューションを統合したことにより、生み出される情報の価値が一段と高くなるわけだが、aspenONEではその情報を受け取って活用するヒトの存在に注目した。つまり、適切な時に正しいヒトに正しい情報が伝わり、それが速やかに受け渡されて、情報の流れがさらにそれ自体の価値を高めていく。計画と実行状況をリアルタイムに比較検討して、タイムリーな意思決定ができるようになった」とゲインズ副社長。
その要となるのは、エンタープライズポータル技術を基盤とした「アスペンオペレーションズマネジャー」(AOM)と呼ばれる製品で、パーソナライズやセルフサービスといった機能により、利用者の役職や業務に応じた情報への一元的で透過的なアクセスを実現する。
これが最も重要になるのが、デマンドドリブン・サプライネットワーク(DDSN)においてだという。これは、需要予測に基づいて生産や流通の計画を行う従来型のSCMと異なり、実際に需要が発生した時点で柔軟に生産計画を組み替え、必要量だけを生産し、短納期で出荷に至らせるというもの。「極限まで応答の速いサプライチェーンであり、コンシューマープロダクト(CPG)企業においては生き残りをかけた最大のテーマになりつつある」(ゲインズ副社長)のだという。
実際、プロセス産業の中には消費財を手がける企業が多いため、DDSNに対応できる同社のサプライチェーンソリューションへの関心は高い。しかし、一方で川上の素材型企業が多いのもプロセス産業界の特徴だ。「石油や化学などの素材産業はプラントも大きいので、やはり需要予測を中心にして生産設備を効率良く動かすことが重要になる。そのため、需要に応じて生産するDDSN型と予測中心の従来型の2種類のSCMソリューションを用意していく」とゲインズ副社長。ただ、「川下の最終製品メーカーはDDSN化を進めているわけで、その要求に応じて素材を迅速に供給していくためには、従来型といえどもサプライネットワークの迅速化が求められると思う」とも話す。
例えば、タイのセマンタイケミカルの事例があるという。これはポリエチレンメーカーだが、その日その日の市場価格の最低値で販売することを約束しており、当日になってのキャンセルにもペナルティなしで応じるのだという。このため、市場価格が下がると一気に注文が殺到したりする。非常に難しい生産スケジューリングが要求されるわけだが、アスペンテックのサプライチェーンスイートを利用してシステムを実装しているのだという。
さて、今後の対日戦略に関してゲインズ副社長は、「ワールドワイドでも同じだが、まずは成功例を示して、市場に対して当社のソリューションの効果を知らしめたい。日本においては、消費財分野ではすでにエフピコという優れた事例がある。これは食品トレーを生産している企業で、計画系のモデルの複雑さは世界的にみてもトップクラスだった。また、ここの商品は完全なコモディティ品であり、商品そのものでの差別化は難しい。SCMを利用することによる差別化を達成した典型的な事例だ。それで、今後1年から1年半で素材型産業でも同様に成功事例を打ち立て、アスペンテックのSCMの評価を確立したい」と述べる。