FSISナノシミュレーショングループが6月に新ソフト公開

誘電応答・量子伝導など、次世代デバイス開発を支援する解析エンジン出揃う

 2005.03.12−文部科学省ITプログラム「戦略的基盤ソフトウエアの開発」(FSIS)プロジェクトのナノシミュレーショングループ(グループリーダー=大野隆央 物質・材料研究機構計算材料科学研究センター副センター長)は、開発成果としての新しい解析ソフトウエアを6月に追加公開する。すでに公開中の第一原理擬ポテンシャル電子状態計算ソフト「PHASE&CIAO」に加えて、誘電応答や量子伝導、ナノ構造解析などのシミュレーションを可能にするソフト3種を開発したもの。同グループは、次世代ナノデバイス実現のための材料探索、物性予測、機能設計などを行うための統合システムを「CHASE-3PT」の名称で開発しており、6月には基本的な解析エンジンが出そろうかたちになるという。

 FSISプロジェクトは2002年度から推進されているもので、「次世代量子化学計算」、「たん白質−化学物質相互作用解析システム」、「ナノシミュレーション」、「次世代流体解析」、「次世代構造解析」、「HPCミドルウエア」、「統合プラットホーム」−の7グループが活動している。開発成果としてのソフトは、プロジェクトのホームページで随時公開されてきているが、ナノシミュレーショングループとしては、密度汎関数法(DFT)に基づいて物質中の電子の状態をシミュレーションする「PHASE」と、その計算に利用する擬ポテンシャルを算出するための専門ソフト「CIAO」、そして各元素を対象にしてあらかじめ計算済みの擬ポテンシャルデータベースを公開している。

 6月には、PHASE&CIAOもバージョンアップが予定されており、PHASEには物質表面における走査型トンネル顕微鏡(STN)像のシミュレーション、バルク状態や表面・界面における局所状態密度(LDOS)を原子ごとまたは層ごとに表示、エネルギー分割された電子状態の計算・表示、バルク状態で体積を変化させた際のストレスの計算−などの新機能が追加される。CIAOもX線光電子分光(XPS)計算機能などが可能になったほか、擬ポテンシャルデータベースの作成では1番から118番までの全元素のデータがそろう。また、PHASE用のプリポストプロセッサーを兼ねたGUI環境も用意され、入力ファイルの編集・実行や擬ポテンシャルデータベースの参照、さらに計算結果の可視化にも対応できるようになる。

 一方、新規公開ソフトとしては、大規模ナノ構造解析のためのハイブリッド計算ソフト「CAMUS-FSIS」がある。これは、大規模な系を仮想分割し、計算対象のスケールによって第一原理(FP)、タイトバインディング(TB)、分子力場(MM)の3手法を組み合わせることができるというもの。FP/TB/MMの各計算領域を連携させて、2領域あるいは多領域でのハイブリッド計算を行うことができる。原子間力顕微鏡(AFM)探針先端の原子構造解析などの応用例がある。

 2つ目は、ナノ物質の量子伝導特性を解析する「ASCQT」(仮称)。計算手法としては、グリーン関数を用いたNEGF法(非平衡グリーン関数法)を採用している。非常にまじめに密度汎関数計算を行うものだという。研究の中では、ベンゼンジチオール分子やビフェニルジチオール分子を対象にした計算例が報告されている。バイアス下での定常状態がうまくシミュレーションできるということだ。

 3番目のソフトは「UVSOR」で、全波長領域での誘電応答解析を行うことができる。 次世代半導体材料開発のポイントは、シリコン酸化膜に替わる高誘電率材料を用いてリーク電流を抑制することであり、UVSORは第一原理シミュレーションによって材料の誘電率を予測できるため、次世代の高誘電率材料の探索に役立つという。将来的には磁気光学効果(ストレージデバイス)、非線形光学効果(光通信)、透磁率(インダクタンス)、核磁気共鳴(生化学)、ピエゾ効果(ナノアクチュエーター)、有限電場下での誘電応答(薄膜誘電応答)、配向分極による誘電応答(バイオ・高分子)−などの分野での応用も期待できるとしている。

 なお、FSISプロジェクトは、本来は2006年度までの予定だったが、ソフト開発が順調に進行したため、2004年度にて前倒しで終了することが決まった模様。2005年度からは新規プロジェクトへの発展が計画されているようだ。この詳細は取材ができ次第、お伝えしたい。