東京大学大学院・土井正男教授がOCTAのさらなる発展に意欲

日本総研J-OCTA報告会で基調講演、プラットホームとエンジン強化を推進

 2005.01.26−日本総合研究所は25日、3月から正式発売する材料設計支援システム「J-OCTA」の完成を記念し、東京・千代田区の本社大会議室で「プレリリース報告会」を開催した。冒頭で基調講演を行ったプロジェクトリーダーの東京大学大学院工学系研究科・土井正男教授は「プロジェクトで開発したフリー版のOCTAは、カスタマイズなどの自由度の高さを優先した結果、使いにくい面が残ってしまった。商用版のJ-OCTAでそこを補完してもらえると期待している。フリー版OCTAも解析エンジンの検証や機能強化の点でまだまだ発展の余地があり、とくに実験との連携や他の解析ソフトとの連携をテーマに開発を続けていく」と今後へのさらなる意欲を示した。

 J-OCTAは、2002年3月まで経産省プロジェクト「高機能材料設計プラットホームの開発」(通称・土井プロジェクト)として実施された開発成果を商用化したもの。土井教授は、「OCTAはソフトマテリアル(ソフトマター)を対象にした統合シミュレーターだと位置づけている。とくに、扱う時間軸やスケールの異なる複数のシミュレーターを連携させて大規模な問題を解析する“マルチスケールモデリング”の考え方を先取りして具現化できたことが大きな成果だった」と話す。

 国家プロジェクトの場合、終了後に開発成果が凍結される例が少なくないが、「OCTAで築き上げてきたことを絶えさせたくない。解析エンジンの開発グループのボランティア精神のもとに、プロジェクト終了後にこれまでに2回のバージョンアップを行い、新機能を追加してきたほか、Naplesと呼ばれる新エンジンのお試し版の公開もはじめている。普及活動としては研究会や講習会、夏の学校などを継続的に開催し、新化学発展協会の高分子ワークショップの中で勉強会が行われている」と述べ、いくつかの事例(http://www.aspronc.org/02bukai/25sentan_ws.html)を紹介した。これらの計算がOCTAで簡単に行えるというわけではなく、「かなりの苦労の産物」だが、学問的にも非常に興味深い結果が得られているのだという。

 また、土井教授自身も、OCTAでやり残したソフトマテリアルの微少領域の流動現象を扱うためのシミュレーターをさらに充実させるため、科学技術振興機構(JST)のサポートで「多階層的バイオレオシミュレーターの研究開発」プロジェクト(2002年10月から2007年9月まで)に取り組んでいる。具体的には、物質の界面における摩擦・剥離、充てん、薄膜の乾燥−などの現象のシミュレーションを目指している。「OCTAの発展線上でシミュレーションプラットホームとしての基盤強化を図り、同時に新しいエンジン(バイオゲル、バイオ流体、微粒子分散系を対象にしたもの)を取り揃える」という方針だ。同プロジェクトを通して、マルチスケールモデリングの有効性を実証することも目標となっている。

 とくに、OCTAに関しては、「当面はユーザーを増やすことを第一に考えたい。そのために、実験装置との接続や実験データの取り込みなどの“実験との連携”、そして外部で開発された“他のソフトウエアとの連携”の2つに力を入れる。なかでも、他のソフトとの連携は課題となっているので、さまざまなファイルフォーマットをサポートできるコンバーター開発など、もっとこちらから積極的な働きかけを行いたい」とした。

 土井教授は、講演の中で計算機材料設計技術が今後どのように発展するかの展望も示し、「大学などの研究機関ではとくにナノテクのための支援システムが求められ、基礎研究がますます盛んになると考えている。一方、企業においても開発のサポートとしてのツールという位置づけでの普及が進むが、本当のところはそれでは不十分で、自動車や半導体の開発の場合のように、いずれはものづくりの必須技術として確立されなければならない。大学での基礎研究が進み、多階層のシミュレーターの連携ができる統合基盤が整った段階で、企業への導入と普及が一気に進むのではないか。その意味で、国がとるべき施策として、良質のプログラム開発という仕事をきちんと評価するシステムづくり、プログラムを集めて保管しいつでも利用できるようにする機構の設立を考慮するべき。また、関連する国家プロジェクトがバラバラに走っているのが実態なので、省庁などの壁を越え、国のイニシアチブによってさまざまなプロジェクトを1つのテーブルにつかせ、統合化についての議論をすぐにでもはじめることが急務ではないか」と提言した。

 土井教授は、「計算だけで材料開発ができるようになるのはかなり先の話だが、10年とか20年すれば、製品の設計製造プロセスの中で材料シミュレーション技術がしっかりとした位置に据えられていると思う。時間はかかるだろうが、計算機材料設計は必ず実現すると信じている」と力強く述べた。