アクセルリスがAccord エンタープライズ製品でケムインフォ市場に本腰

開発体制・パートナー戦略も整備、Elsevier MDLとの主導権争いへ

 2005.05.28−アクセルリスは、化学情報管理を中心にしたケムインフォマティクスソリューション「Accord エンタープライズインフォマティクス」を製品化した。国内でも本格的な事業体制を整え、最新版6.0として販売を開始した。IT(情報技術)の業界標準をベースに、データベース(DB)アプリケーションの開発から実行環境までを体系的に整えたもの。同社では、日本法人内に専任のアプリケーション技術者とシステム開発者を採用するとともに、開発やシステムインテグレーション(SI)のためにパートナー6社と提携した。この市場では、Elsevier MDL(エルゼビアMDL)がトップの地位を築いているが、これと正面から対決し積極的なリプレースを狙う計画。今後のせめぎ合いが注目される。

 アクセルリスのAccord エンタープライズインフォマティクス(AEI)は、買収したシノプシスとオックスフォードモレキュラーの技術と製品を統合したもので、オラクルのデータカートリッジ技術をベースにした業界標準のアプリケーションフレームワークに対応している。

 製品全体は、独自のDBエンジンと開発キットから構成され、化合物情報管理、試薬管理・プレート管理、ハイスループットスクリーニング(HTS)データ管理などの基本となるアプリケーションがパッケージとして提供される。また、新開発の試薬DB「CAP」などのコンテンツ製品も用意されている。このCAPは、42のサプライヤーが提供する約30万件の試薬と160万件のスクリーニング化合物が登録されており、今年の秋の更新では和光純薬工業や東京化成工業などの日本の試薬会社のカタログデータも収録される。

 ユーザーインターフェースとしては、専用クライアントの「ワークベンチ」とともに、専用開発キットを使ってウェブインターフェースを作成することも可能。また、エクセルをクライアントに利用できるのも特徴で、データの検索や登録だけでなく、各種の化学計算やデータ解析、統計処理などをスムーズに行うことができる。エクセルの関数やアドオンとしてさまざまな機能が実現されており、ADME(吸収・分布・代謝・排出)予測なども簡単に行える。

 ただ、こうしたDBシステムは、そのままで使われることはほとんどなく、ユーザーアプリケーション構築のためのプラットホームとして利用されるため、事業体制としては開発面でのフォローが不可欠になる。そこで同社では、専任者を置いて社内でも開発を手がけられるようにするとともに、外部のパートナーとの協業体制も整えた。現在、富士通、日本IBM、シーエーシー、ファステクノロジー(www.phastec.com)、ベータ・ネット(www.betanet.co.jp)−ほかの6社と協力して事業を進めていく。

 同社では、18日(東京)と20日(大阪)にケムインフォマティクスセミナーを開き、一般参加者やパートナーの代表を招いて国内での実質的なキックオフミーティングを実施したが、その場ではとくに最大手のElsevier MDLへの対抗姿勢が鮮明にされた。アクセルリス側からのプレゼンテーションでは、AEIとElsevier MDLのISISとの比較が詳細に取り上げられ、機能的にはISISを完全に包含するだけでなく、新たな機能を提供できると強調した。

 また、自社のハードウエアのサポートをElsevier MDLに切られた経験を持つIBMと富士通が「Elsevier MDLを倒したい」などと発言し、怪気炎をあげた。とくにIBMは、DB2をベースにした「ディスカバリーリンク」を利用して、ISISからAEIへのマイグレーションシナリオを披露。ディスカバリーリンクは、他社のDB製品にラッパーをかぶせることで、DB2から異なるDB内のデータへの包括的なアクセスを可能にするソフトで、この機能を応用することによってISISからの移行をスムーズにすることができるとした。(写真参照)

 ケムインフォマティクス市場では、この20年以上にわたってElsevier MDLが圧倒的な存在感を示してきており、これまでに登場した競合製品はどちらかというとElsevier MDLとの直接対決を避け、小回りの聞いたニッチな分野を狙うというケースが多かった。その意味で、今回のAEIが市場にどのように浸透するか注目される。ちょうど、Elsevier MDL側もISISから次世代製品であるIsentris(アイセントリス)への切り替えを進めている時期でもあり、両ベンダーの主導権争いが今後激化しそうだ。