アイピーフレックスが高性能チップでバイオインフォ市場に進出

回路をクロックごとに動的再構成、米NIHプロジェクトに採用へ

 2005.05.17−ファブレス半導体メーカーのアイピーフレックス(本社・東京都品川区、萩島功一社長)は、独自のダイナミックリコンフィギュラブル(動的再構成可能)プロセッサー「DAPDNA-2」(商品名)の新用途として、バイオインフォマティクス市場に進出する。これは、チップ内の回路構成を瞬時に変更することでさまざまな機能を現出させたり切り替えたりすることができるプロセッサー。米国立衛生研究所(NIH)のプロテオミクス関連プロジェクトに採用される見込みで、この分野への適合性が証明できたとして本格的な市場開拓を進める。高い処理性能を求める計算化学/コンピューターケミストリー分野への応用も期待される。

 アイピーフレックスは2000年3月に設立された企業で、2002年8月に評価版のチップを完成させ、2004年3月から量産版としての「DAPDNA-2」(http://www.ipflex.com/jp/1-products/index.html)を販売している。現在はこのチップを単独で提供するほか、開発用の評価ボードとして2チップを搭載したPCIバス対応のパソコン内部増設用アクセラレーターボードタイプと、1チップ搭載のmini ATXサイズのマザーボードタイプを用意しており、コンパイラーを中心とした統合開発環境の整備も進んでいる。

 DAPDNA-2自体はデュアルコアプロセッサーで、一方のコアは通常のRISCプロセッサーと同様の構造を持つ“DAP”、もう一方のコアが微小なプロセッサーエレメント(PE)を376個実装した“DNA”と呼ばれる。後者のコアを動的に再構成できるのが最大の特徴となる。

 通常、プロセッサーには使う可能性のあるさまざまな命令や機能が回路として焼き込まれている。それに対して、ダイナミックリコンフィギュラブル技術は必要に応じて動的に回路を構成し直すことが可能。もともとは、組み込み用途などの命令や機能が限定されている分野で、プロセッサーの面積効率を上げるために用いられている技術だが、同社ではPEに高性能な32ビット演算器を採用し、DNAチップ間を毎秒30ギガビットで高速接続できるようにして超並列処理向けのアーキテクチャーを組み込むなど、高速多機能処理に重点を置いたデザインを行っている。

 PE間の接続情報は、専用のコンフィギュレーションメモリー内に4パターン分まで一度に蓄えることが可能で、クロックごとにその回路構成を切り替えることができる。個々のPEの機能や役割もそのつど自由に変えられる。このため、同時多重処理/並行処理が得意で、同じ計算をパラメーターやデータセットを変更して一気に走らせるなど、バイオインフォマティクスや計算化学で最もボトルネックになる部分を大幅に高速化できると期待される。

 同社のベンチマーク(別表参照)によると、DAPDNA-2(166MHz)とペンティアム4(3.06GHz)の比較では、18−55倍の性能差(消費電力は10分の1)を発揮できるという。同社のロードマップによると、2007年ごろには浮動小数点演算機能を追加し、クロック周波数も1GHzクラスにまで高めた次世代チップを完成させる予定だ。

 こうした複雑な機能をユーザーが使いこなすために統合開発環境が整っている。「DAPDNA-FW II」として各種のツールが用意されており、ビジュアル環境で回路の設計や構成変更、プログラムのコンパイルやPE構成への最適化などを行うことができる。今年末までにはCコンパイラーや科学技術計算用ライブラリーの整備など、バイオインフォや計算化学などの実際のアプリケーションを移植しやすいように開発環境を強化拡充していく。

 さて、新たに採用される予定のNIHプロジェクトだが、これは米ユーザースペース社(ワシントン州)が補助金を受けて実施しているもので、プロテオミクス研究のための超高速なネットワーク研究環境を実現することが目的。たん白質の質量分析データのタギングやモデリング処理をハイスループットで実行することができる。プロジェクト(http://www.userspace.com/userspace_sbir_release_10.08.04.pdf)は昨年10月からスタートしており、予算は初年度に19万4,000ドル、2年目には20万ドルが用意されている。 DAPDNA-2は大量の質量分析データを処理するための心臓部のシステムに採用されるとみられる。

 DAPDNA-2は、統合開発環境で100セットの販売実績があり、デザインインした案件も20件ほどに達している。半導体用画像検査装置、医用画像処理装置、産業用プリンター、ネットワークセキュリティ機器、電波望遠鏡などの採用実績がある。バイオインフォ分野は新規の用途となるが、国内も含めて今後への期待が大きい。同社では、それを含めて年内に採用実績を40件まで増やすことを目標にしていく。

DAPDNA-2とPentium4の性能比較

アイピーフレックス社によるアプリケーションマッピング。シミュレーターによる性能推測

処理内容 Pentium4(3.06GHz) DAPDNA-2(166MHz) 演算器使用率(%) 性能比(倍)
FFT (1024pt) (μs) 122.0 6.14 48 20
3x3中央値 (M pixel/sec) 15.5 664 18 43
7x7 FIR (M pixel/sec) 3.0 166 27 55
二値化画素膨張/縮小 (M pixel/sec) 32.7 664 14 20
誤差拡散 (FS型) (M pixel/sec) 11.0 304 43 28
誤差拡散 (JN型) (M pixel/sec) 6.2 110 33 18