SAPの化学業界戦略:ハートムット・ヒィーセン氏インタビュー

適応力と成長性に富む企業を実現する“ABN”、製品開発力の強化を支援

 2005.07.22−SAPは、化学業界向けのエンタープライズアプリケーションで世界トップの実績を誇る。ドイツに本拠を置くソフトベンダーとして、30年以上にわたって欧米の大手化学会社の成長をサポートしてきた。同社は、世界的な化学大手11社のCIO(情報担当役員)を集めたアドバイザリーカウンシルを組織しており、化学業界の情報化ニーズを把握し、戦略的なソリューション開発を推進している。先ごろ来日したSAPアジアの化学およびオイル&ガス担当インダストリービジネスユニットのディレクターであるハートムット・ヒィーセン氏に、今後の中長期的な化学業界のIT(情報技術)動向と、新しいSAPのソリューション戦略“アダプティブビジネスネットワークス”(ABN)について聞いた。

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 − 化学業界におけるSAPの実績は?

 「1972年に英ICIの子会社に導入したのが初めてで、現在ではトップ10企業のほとんどを含めて1,400社以上の導入実績がある。日本でも、三菱化学、三井化学、住友化学など、大手企業に採用してもらっている」

 「SAPが化学業界に強い理由の一つは、こうした業界リーダーを顧客として抱えていることで、充実したフィードバックを得るために大手11社のCIOからなるアドバイザリーカウンシルを組織している。化学業界と密接に連絡しながら製品を開発できることが強みだ」

 − ここへ来て、情報投資に対するニーズの変化がみられますか。

 「昨年までは、コスト削減が大きな命題になっていたが、今後は企業の成長へ向けてのIT投資が増加するとみている。アドバイザリーカウンシルの意見によると、これからの課題として、サプライチェーンの最適化、ビジネスの国際化、企業の成長、経営や事業の革新−などがあげられている」

 「5年後を考えると、日本の化学企業は欧米に比べてより専門性の高い人材を必要とし、事業面でもスペシャリティ分野が大きくなっていくと思う。新製品開発力を動力源とする企業が増えるだろう。今後ますます迅速な変化に対応できる柔軟なIT基盤が必要になるわけだが、それを実現するのがSAPの新しいコンセプトである“ABN”だ」

 − ABNについて説明してください。

 「SAPが今後提供していくエンタープライズソリューションの新コンセプトで、適応力と成長性に富んだ企業になるための総合的なIT構想を示したものだ。ERP(エンタープライズリソースプランニング)を基盤に、新製品の開発と市場導入、販売とマーケティング、生産、サプライチェーンネットワーク−の4つのビジネスプロセスをサポートする。プラットホーム技術としてのネットウィーバーを核にしており、SAPとしては最近はミドルウエア体系の整備に力を入れてきたが、今後はネットウィーバーの上でABNに対応したアプリケーションの提供を加速させていく」

 「とくに、日本の化学産業に対しては、新製品の開発と市場導入(NPDI)を戦略的ソリューションとして紹介していきたい」

 − NPDIは、これまでPLM(製品ライフサイクル管理)ベンダーがカバーしてきた範囲と重なるように思いますが、SAPがこの分野に取り組む意味は?

 「その通りだが、もっとERPと統合されたイメージになる。NPDIの中には、新製品のアイデアを共有化し、それを製品コンセプトに落とし込むなどのプロセスをサポートする“クロスプロダクトディフィニション”(XPD)、複数の開発プロジェクトを管理し、要員配置や予算配分を最適化する機能を持つ“クロスリソースプログラムマネジメント”(XRPM)といったアプリケーションが含まれている。今後はPLMではなく、NPDIという新しいコンセプトが必要な時代になると思う」

 − SAPというと、大企業向けというイメージがありますが、日本の化学業界は中小企業が大半を占めています。こうしたマーケットに対する戦略を持っていますか。

 「日本では今年末から具体的に提供をはじめるが、製品名“ベストプラクティス”と呼ばれるものがそれだ。30年間の化学業界での経験に基づいて開発したもので、7−8割の業務はこのビルディングブロックの組み合わせだけで実現することができる。これまでのテンプレートとは異なるもので、具体的なビジネスシナリオを選ぶだけでパラメーター設定が簡単に行える。導入コストがさらに引き下げられるので、中堅ユーザーに広く受け入れられるだろう。業界別はもとより、国ごとの特殊性も考慮している。そのために日本版は年末になるが、期待してほしい」