富士通が材料設計支援システムMaterials Explorerの最新版4.0
ポリマーモデリング機能を追加、新しい計算手法も導入
2005.12.09−富士通は、分子動力学法(MD)をベースにした材料設計支援システム「Materials Explorer」(マテリアルズエクスプローラー)を強化し、最新バージョン4.0としてきょう9日から販売開始した。とくに、燃料電池などのポリマーを対象とした機能を追加するなど、ナノテクノロジー関連の適用領域を拡大。材料分野の実験結果を原子レベルでモデル検証・説明できるシステムへの発展を目指している。Windowsで動作し、ソフト価格はウルトラ版が300万円、プロフェッショナル版が100万円。出荷開始は来年1月下旬で、2年間に4億円の売り上げを見込んでいる。
マテリアルズエクスプローラーは、国産の商用MDソフトとして10年以上の実績のある製品(当初の名称はMASPHYC)で、表面吸着や結晶成長、表面損傷のシミュレーションなど、ユーザーの要望を反映させながら機能強化を続けてきた。化学業界や大学などの研究機関を中心に約1,300本(サイトライセンスを除く)の販売実績がある。
今回のバージョン4.0の最大のポイントは、ポリマーモデリング機能を新たに搭載したこと。同社の説明によると、競合製品は用意されたモノマーユニットを使用してポリマーを組み立てる方式のものがほとんどで、新規なポリマーを対象にしたい材料研究分野ではモデル作成の自由度が低いことが問題になっていたという。マテリアルズエクスプローラーは、ウィザード形式でユーザーが好きなモノマーを構築し、それを結合させて自由にポリマーをつくり上げることが可能。無限鎖のポリマー結晶構造やアモルファス構造などの分子集合体を柔軟にモデリングできる。
MD計算を行うためにポリマーモデルを周期境界条件の空間内に初期配置する際にも、エネルギー計算を行いながら長鎖状分子を精度良く収容していくことができるようになっている。ポリマー物性の予測機能などは今回はまだ入っていないが、用途としては燃料電池の材料設計などを想定しているため、ポリマー構造をモデリングし、水素の移動などを解析できれば現時点では十分であるとしている。
ただ、その他の物性予測では、セラミックスを対象とした熱伝導率解析機能を新たに組み込んだ。これまでは計算が収束しにくいという問題があったが、非平衡分子動力学法に基づいて摂動の数値を変えながら熱流束を解析する計算を何度か繰り返す手法を取り入れることで、熱伝導度を算出できるようにした。
一方、時間スケールの大きなシミュレーションを実行するため、商用版MDソフトで初めてヘルナンデスの時間積分法を導入。通常の手法が1フェムト秒ステップの時間刻み幅を採用しているとすると、ヘルナンデス法は精度を落とさず8フェムト秒ステップでの計算が可能。同じ時間スケールの計算が短時間で終了するとともに、同じ計算時間で時間スケールの大きい計算を実行することができる。
また、操作性の改善としては、計算条件設定の際に、よく使うポテンシャルを登録しておくことができるようになった。面倒な手順が簡略化されることに加え、計算に不慣れな研究者でも使いやすい。さらに、周期境界条件で、計算対象のセルだけでなく、隣接するセルをイメージ表示できるようになったため、境界近辺での分子の挙動が理解しやすい。
その他、研究発表会などにおいて臨場感のあるグラフィックを表示したいという要望に応え、分子表面に金属や樹脂・ゴムなどの素材感を付与できるようにした。光源も1つから4つに増え、リアルな分子モデルを描き出すことができる。プレゼンテーション向けに、電場や磁場などの外場をはっきりと表示する機能も追加された。
チュートリアルは、今回からフラッシュによる動画で提供される。ブラウザーで閲覧することができ、モデリングや相互作用解析、計算条件設定、計算実行、計算結果の表示と解析など、実際のソフトの操作や動きをみることができるのでわかりやすい。
なお、同社では、今回の最新版を紹介するセミナーを、来年1月23日に大阪で、同31日に東京で開催することにしている。