国立情報学研究所の佐藤寛子助教授らが化学用グラフィックライブラリーを開発

オープンソースとして無償公開、国産のソフトづくりを手助け

 2005.12.14−国立情報学研究所の佐藤寛子助教授らの研究グループは13日、コンピューターケミストリーシステム(CCS)向けの化学グラフィックライブラリー「ケモじゅん」を開発、オープンソースソフトウエア(OSS)として26日から無償公開すると発表した。分子グラフィックを表示させるための共有基盤となる技術で、大学や企業の研究者などがソフト開発を行う際に部品として使用できる。継続的に機能強化を図り、商用ソフトの開発者にも採用されるレベルへと育成していく。国産CCS開発を促進する意味からも今後の発展が期待される。

 佐藤助教授らは2002年から今回のプロジェクトをスタート。基盤には、SRAが開発しているオープンソースの汎用グラフィックライブラリー「じゅん」(http://www.sra.co.jp/public/sra/technical/jun/)を使用し、化学向けの拡張を施した。このほど公開するのは最新版のバージョン30で、ライブラリーの中には分子を表示するためのオブジェクトを生成する「分子オブジェクト」、三次元分子オブジェクトを描画するための「分子ビューアー」、分子グラフィックをグラフオブジェクトとして操作するための「グラファー」のほか、MOLファイルを読み書きする機能や、さまざまな形式のファイルを閲覧するための「化学メディアナビゲーター」−が含まれている。

 ワイヤーフレームやボール&スティック、スペースフィル、スケルトンなど、代表的な表示スタイルが可能であるほか、分子の拡大や縮小、回転・移動など、化学系GUI(グラフィカルユーザーインターフェース)を作成するために必要な機能がひと通りそろっている。グラファーは、分子を点(原子)と線(結合)から構成されるグラフとして表現する概念で、分子構造をグラフに変換してさまざまなグラフィック操作を行う仕組みである。

 今後の機能拡張では、分子の組み立てや表面積の算出、表面への数値のマッピング、アニメーションファイルの作成、対応できるファイル形式の拡大−などを予定している。

 佐藤助教授らのグループの研究においては、化学反応予測システムやNMRスペクトル予測システム、分子間力を体感するシステムなどのGUIに採用した実績があり、汎用性と特異性を兼ね備えたライブラリーとなっていることが特徴。佐藤助教授は「現在の分子グラフィックは計算結果などを静的に表示することがメインだが、ケモじゅんの学術的な新規性としては、研究者の思考にインタラクティブに追随する思考ツールとしての動的なGUIの確立を目指したい」としている。

 また、「国内の化学研究者は欧米のソフトを使うばかりでなく、自分でもつくるということをきちんと考えるべき。国産ソフト開発を振興する観点からも着実にプロジェクトを継続させ、いまは小さくても大きく育てていきたい」と話す。

 なお、ケモじゅんの開発言語としてはSmalltalkが利用されており、Windows、MacOS、UNIX、Linuxのいずれでも稼働が可能。ライセンスは、通常のGPLライセンスとしてオープンソースで無償提供されるが、商用ソフトへの組み込みに適したLGPLライセンスでの提供も可能という。

 ケモじゅんのダウンロードは26日から専用サイト(http://research.nii.ac.jp/~cheminfo/ChemoJun/)にて行える。