菱化システムが仏サイエノミクスの材料設計支援システムを発売

統合プラットホーム機能を提供、最先端のアカデミックコード組み込み

 2006.06.02−菱化システムは、仏サイエノミクス社と販売提携し、高分子材料などの設計支援システム「MAPS」を1日から発売した。大学などで開発された最先端の計算プログラムを組み込んで利用できるプラットホームソフトで、量子化学や量子物理計算、分子動力学、メゾスケールシミュレーションなどの幅広いソルバーに対応している。材料設計分野では、計算したい対象や問題のスケールに合わせてソルバーを使い分けるのが一般的。ただ、アカデミックの最新ソフトは理論を詳しく理解していないと使えないなど敷居が高かった。MAPSは、それらをだれにでも駆使できるようにする点で注目される存在になりそう。

 MAPSは、分子モデリングや計算結果の解析・可視化などのGUI(グラフィカルユーザーインターフェース)環境と、各種ソルバーとのインターフェースを備えた材料設計支援のためのプラットホーム。

 開発元のサイエノミクス社は「IMT(革新的モデリングテクノロジー)コンソーシアム」を組織し、メンバーであるBASFとフランス王立石油研究所(IFP)、エニテクノロジー、ICI、ローディアの5社の要望を取り入れて製品化を進めている。コンソーシアムの参加費用は年間6万ユーロで、メンバーには10本分の使用権が与えられるという。

 欧州は大学と企業との結びつきが強く、企業の研究者は商用ソルバーよりもアカデミックソルバーを好む傾向がある。このため、MAPSではソルバーは完全に外部のものを採用しており、サイエノミクスはGUIおよび解析機能、インターフェース開発に特化するという方針をとっている。

 今回菱化システムが発売したのは最新のバージョン1.6で、外部ソルバーとしては第一原理バンド計算を行う「ABINIT」(http://www.abinit.org)、分子動力学計算の「LAMMPS」(http://www.cs.sandia.gov/~sjplimp/lammps.html)、半経験的分子軌道法の「MNDO」、分子動力学計算の「NAMD」(http://www.ks.uiuc.edu/Research/namd/)、量子化学計算の「TURBOMOLE」に対応している。API(アプリケーションプログラミングインターフェース)が用意されているため、業界標準のスクリプト言語であるPythonを使って、自分の好きなソルバーをMAPSのプラットホームに組み込むことも自由に行える。

 さらに、今年末に予定されているバージョン2.0以降で、「Towhee」(http://towhee.sourceforge.net)

、「DPD」(http://math.nist.gov/mcsd/savg/parallel/dpd/)

、「Blends」などのインターフェースが順次用意される。QM/MMなどのハイブリッド計算手法も盛り込んでいく。

 一方、モデリングやデータ解析機能も順次充実させていく予定だが、とくに注目されているのがバルク状態の高分子モデルを構築するためのアモルファスビルダーだという。これは、アテネ工科大学のD・テオドル教授とサイエノミクスとの共同開発による“CBMC法”(コンフィギュレーショナル・バイアス・モンテカルロ)を組み込んだもの。複雑な分子鎖に対しても、不自然なカテナン構造(分子鎖が環を突き抜けるような構造)を生じることなく、実際に近い密度で自然なモデルを構築することができる。

 さらに、分子動力学法などの古典計算では精度の高い力場パラメーターが必要になるため、菱化システムでは米イーオンテクノロジーのパラメーター作成ツールあるいは専用パラメーターセットを組み合わせて提供していく。

 システム全体はすべてモジュール化されており、必要な部分だけ購入することが可能。ソフト価格は、基本のGUI部分が企業向け189万円、官公庁向け94万5,000円、大学向け28万3,500円。外部ソルバー用のインターフェースは1本当たり企業向け97万5,000円、官公庁向け48万7,500円、大学向け14万6,250円となっている。ソルバー自体は無償で入手できるものも多い。

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 MAPSの基本コンセプトは、わが国の土井プロジェクトで開発された「OCTA」によく似ている。菱化システムでは、メゾスケールに特化したOCTAに対し、量子力学/分子動力学などの分子レベルのシミュレーションを得意とする点で差別化する考え。今後、メゾスケールの外部ソルバーも加わってくる予定だが、むしろアクセルリスの「マテリアルスタジオ」の対抗製品として位置づけたいようだ。