富士通がセルインジェクターを実用域へ機能強化

ピコリットル単位での吐出量制御を実現、今期は大学などで実績づくりへ

 2006.07.22−富士通は、細胞の中に遺伝子やたん白質、抗体、薬物などを注入できる自動インジェクション装置「セルインジェクター」を実用域へと機能強化し、「CI-2000」の名称で製品化した。とくに、ピコリットル単位で注入量を精密に制御できる機能を新たに搭載。細胞に対する毒性試験などを正確に実施することができるようになった。同社では、昨年五月に川崎市のかながわサイエンスパーク(KSP)に開設した評価ラボを利用するとともに、国内外の大学などにデモ機を10数台貸し出し、年内は研究現場での実績づくりに全力をあげる考え。来年以降に本格的な事業への発展を目指していく。

 セルインジェクターは、NEDO技術開発機構の助成を受けた「バイオ・IT融合機器開発プロジェクト」の成果を下敷きにしたもの。3年前に試作機を公開、1年前に商用機として「CI-1000」を商品化し、テストマーケティングを続けてきた。装置の製作は富士通オートメーション(FJA)が担当している。

 細胞への物質注入はさまざまな方式があるが、「セルインジェクター」は付着型と浮遊型の両方の細胞に対応でき、遺伝子だけでなく、たん白質や抗体、各種化合物など注入が難しい物質でも柔軟に扱えることが特徴。高度に自動化されているため、操作に熟練した技能を必要とせず、1細胞当たり最高0.8秒での注入が可能なため、研究を大幅にスピードアップさせることができる。

 使い方は簡単で、付着細胞の場合は培養したシャーレをセットし、内蔵カメラで細胞画像を認識させたあと、画面上で細胞をマウスクリックするだけ。シャーレの傾きも自動的に補正されるため、確実な注入が行える。浮遊細胞の場合は、3ミリメートル角のシリコン基板上に1,000個の細孔を設けた専用シャーレを使用する。下方向から吸引を行うことで細孔内に個々の細胞を捕そくし、全自動での物質注入を行う。

 ただ、注入に用いる針(キャピラリー)の内径の微妙なばらつきや注入する物質の性質によって、吐出量を精密にコントロールすることが難しいという課題があった。これに対して、新機種のCI-2000では、注入する物質をあらかじめ蛍光標識し、キャピラリー内での蛍光量を測定しておく。ユーザーが注入量を指定すると、必要な圧力と時間を割り出して吐出量をコントロールするという仕組みだ。指定はピコリットル単位で、誤差はプラスマイナス50%となっている。この吐出量較正機能は特許出願中だという。

 また、現在は市販品のキャピラリーを使用しているが、内製化へ向けて研究所との連携も進んでおり、キャピラリーの性能・品質の面からも精密度向上が期待される。

 一方、評価ラボ内には、CI-1000とCI-2000が据え付けられ、研究者が自分の細胞や注入サンプルを持ち込んでテストできるような施設が整っている。それに加え、京都大学やマサチューセッツ工科大学など、生命科学の先端研究機関にデモ機を貸し出して評価を受けているところ。8月にかけてさらに新機種の展開を進め、具体的な研究での活用事例・成功事例を集めることに力を入れる。

 装置の価格が3,000万円と高価なため、基本的には従来の装置で対応できない難しい事例での実績をテコに、本格的な売り込みを図りたいとしている。