ElsevierMDLに聞く − Isentris移行状況
ユーザー規模によって移行への狙いに相違、移行のペースは予想通り
2006.10.17−化合物の構造や物性データの管理、試薬管理、アッセイデータ管理に代表されるケムインフォマティクスシステム市場が大きなうねりをみせはじめている。SOA(サービス指向アーキテクチャー)などIT(情報技術)標準の大規模な変革が押し寄せているなか、化学情報管理の基盤も変革を避けられないためだ。実際、クライアント/サーバー型からウェブアーキテクチャーへの転換が生じており、そのタイミングを狙ってリプレースを仕掛けるベンダーも増えている。その意味で、クライアント/サーバー型の統合化学情報管理システムISISで市場を支配し、いま新アーキテクチャーのIsentrisへの移行を進めるElsevierMDL(エルゼビアMDL)の動向が注目される。移行の実態と認識に関して、同社の上級副社長兼CSO(最高科学責任者)であるトレバー・ヘリテージ氏、グローバルコーポレートアカウント担当副社長のビル・ボーク氏、フレームワークビジネスグループディレクターのトーマス・ブラッカダー氏の3名にインタービューした。
◇ ◇ ◇
− Isentrisのフルライセンスを導入しているユーザーが28社に増えたということです。着々と普及が進んでいるようですね。
ブラッカダー氏 「それは、Isentrisを構成するダイレクト、コアインターフェース、ベース、ドローの4コンポーネントすべてを導入しているユーザーのことで、個別の導入であればすでに100社以上の実績になっている」
ボーク氏 「ユーザーによってIsentrisを導入する目的に違いがある。大企業は以前のISISでできなかったことをIsentrisでやりたいということで、新しいアプリケーションやソリューションを主体にした導入を図るケースが多い。一方、中堅・中小クラスのユーザーは、ISISの管理コストを下げてシンプルにすることが主な目的になるようだ。例えば、データ検索のための画面設計や検索作業を専門家に頼らなければならなかったところ、Isentrisではエンドユーザー自身が簡単にクエリーを作成できるので、研究がスピードアップするし、管理コストも下がる」
ヘリテージ氏 「大手ユーザーはわれわれのソリューションパッケージに注目してくれている。試薬管理・購買システムのMDLロジスティクス、電子実験ノートブックのMDLノートブックなどだ。欧州の製薬会社や米国バイテク企業は、Isentrisにアッセイエクスプローラーを組み合わせてデータマネジメントをするといった使い方も多い」
− 最近の移行のペースは実際のところどうなのですか。順調だとみていますか。
ボーク氏 「(やや滞っているという見方があるかもしれないが)顧客からみると、Isentrisを導入することは新しいテクノロジーに変えるということであり、具体的なROIを提示するなどして一気に前進させることは簡単ではない。ただ、新技術導入で競争に打ち勝ちたいということが、顧客の基本的な考え方であることは間違いない」
ヘリテージ氏 「移行のペースはある意味予想通りだと思う。Isentrisは、ISIS以上の機能を持ち、新しいアプリケーションにも対応できるシステムであり、顧客に確実に利益を与える。自信を持って進めたい」
ブラッカダー氏 「ISISは15年前にリリースされたものだ。MACCS/REACCSからISISに変わる時も、ユーザーは最初はやはり慎重になった。かつてと同じ状況だとみている」
− 不安はないということですね。Isentrisの開発動向についてはいかがですか。
ヘリテージ氏 「Isentrisドットネットコントロール、Isentrisフォア・エクセル、Isentrisクライアントなど、オープンスタンダードとの統合をさらに深めている。プラットホームとしてのAPI(アプリケーションプログラミングインターフェース)も公開しており、アライアンスがさらに広がってきた。一部で競合するベンダーでも、アライアンスパートナーとなり、Isentris上でのビジネスに乗り出そうというところが出てきた」
ブラッカダー氏 「Isentrisクライアントは、MDLベースの後継製品という位置づけで開発中。単純に名前が変わると考えてくれてもいい。1つのクエリーで多数のデータソースにアクセスする機能を持ち、分析・レポートツールとも統合されている。その一方で、フォームづくりなどの開発環境はマイクロソフトのドットネットに統一し、ビジュアルスタジオを使うようにした。これは、ユーザーからのフィードバックを実際に反映させた結果だ」
ボーク氏 「ただ、テクノロジー主導ではなく、アプリケーション主導に変わってきたことを強調しておきたい。Isentrisはいわば建物の基礎であり、その上にノートブックやレジストレーション、ロジスティクス、さらにはアライアンスパートナーが提供するアプリケーションが構築される」
− さまざまなソリューションが登場することが期待されますね。ありがとうございました。