山口大学発ベンチャー・TSテクノロジーが始動

インシリコでの合成経路開発を実現、量子化学計算と遷移状態DBを利用

 2007.06.12−コンピューターケミストリーシステム(CCS)分野の山口大学発ベンチャーとして、新会社「Transition State Technology」(TSテクノロジー)が9月に旗揚げすることが明らかになった。山口大学の堀憲次教授(産学公連携・創業支援機構副機構長/地域共同研究開発センター長)らのグループが開発した化学物質の遷移状態データベース「TSDB」を利用して、インシリコでの合成経路開発技術を事業化しようというもの。試行錯誤的な実験を大幅に減らすことができるため、新規化学物質開発の期間とコストが劇的に削減されるという。システムの実用化に向けた開発をさらに進め、2009年10月から外部向けの事業を本格的に開始することにしている。

 TSテクノロジーは、堀研究室(http://rdesign.chem.yamaguchi-u.ac.jp/lab/hori/hori.html)で開発された「TSDB」を事業の基盤にする。代表には、堀研究室でD2在籍中の山口徹氏が就任。当面は大学内のビジネスインキュベーションセンター内にオフィスを構える。事業としては、TSDBを利用したサービスを中心としたビジネスモデルを計画しており、受託解析やコンサルティングなどで3年目には売り上げ3億4,250万円、経常利益1億5,000万円を見込んでいる。

 同社が目指しているのは、計算化学と情報化学を融合した新しい合成経路開発技術を確立すること。現在は、情報化学の応用によって過去の反応情報を文献などから検索したり、知識ベースを組み合わせることで網羅的な合成経路探索を行ったりすることが可能になった。ただ、提案される経路が膨大であり、逆に絞り込みが難しくなるという問題も生じている。

 そこで、量子化学計算によって化合物の遷移状態を求め、それをもとに合成経路としての妥当性を検証しようというのが堀教授らのグループの発想。量子化学計算には時間がかかるため、あらかじめ計算済みの「遷移状態データベース」(TSDB)を構築しておき、反応解析を短時間で行えるようにしようという狙いである。

 TSDBはこの4月から試用版(https://trial.tsdb.jp/)を公開中で、約30社がユーザー登録をしている。今後3年をかけて100種類の人名反応を含め、データ件数を3,000件へと強化するとともに、システムの有効性に関する検証研究も進め、2009年10月には外部に対してサービス開始できる水準にまで機能を高めていく。

 また、この構想においては、合成経路を網羅的に提案してくれる合成経路設計支援システムとの連携がポイントになるため、以前から共同研究を行っている東京大学の船津公人教授らのグループ、およびその研究成果を事業化しているケムインフォナビ社との業務提携も行う。ケムインフォナビのAIPHOSが提示した合成経路をTSDBを使って評価することにより、妥当な経路を短期間で絞り込むことが可能になる。

 堀教授は、「典型的な多段階反応では100通りほどの実験をしなければならないが、量子化学で遷移状態を調べるインシリコ実験なら、実際の実験は数回だけで済む可能性もある。劇的な時間短縮・コスト削減につながる。両社の技術の合体で、化学合成の世界に革命を起こしたい」と話している。

 なお、今回のTSテクノロジー起業に関するビジネスプランは、昨年度に行われた山口県産業振興財団主催起業家養成カレッジで山口銀行賞(最優秀賞)を受賞している。