米ティブコソフトウェア:スポットファイアー部門マルカッツォ氏インタビュー

臨床試験に探索的分析手法の導入を、合併後に組織体制さらに強化

 2008.02.16−新薬開発において“情報”の果たす役割がますます重要視されてきている。候補化合物を探る探索研究から臨床試験などの開発段階に至るまで、取り扱うべきデータ量が増大し、その複雑さも増しているためだ。こうした大規模なデータを分析するためのプラットホームとして豊富な実績を築いているのが米スポットファイアーの製品群。昨年6月、ビジネスプロセス管理(BPM)大手の米ティブコソフトウェアに買収されたが、大きな組織がバックに付いたことで事業はさらに加速している。製薬向け新製品「TIBCO Spotfire クリニカルソリューション」の日本語版を今年から本格的に販売し始めた。「データ分析の重要性を広く認識してほしい」とするクリスチャン・マルカッツォ氏(ライフサイエンスアナリシス担当シニアディレクター)に今後の戦略を聞いた。

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 − 今回の買収の経緯を教えてください。

 「両社のCEO同士によるトップ会談で話がまとまった。昨年3月に発表され、6月に合併が完了した。ティブコはSOA(サービス指向アーキテクチャー)に基づいて企業のインフラとしてのソリューションを提供するベンダーで、情報の連携やプロセスフローの改善には強い。ここにスポットファイアーのデータマイニング技術が加わることにより、膨大なデータを意味のある情報として活用するBI(ビジネスインテリジェンス)領域のソリューションを統合できる。現在は、企業全体にまたがって発生するリアルタイムデータの動きをもとに企業経営を行う“予測型ビジネス”を支援・実現することに力を入れている。こうした構想を目標として今回の合併がなされた」

 − 合併後の体制は?

 「スポットファイアー部門として独立した組織となっている。以前のクリストファー・アールバーグCEOは、合併後にティブコの上級副社長に就任し、スポットファイアー部門の社長として引き続き指揮をとっている。さらに組織は拡大しており、合併後に社員は30人増えているし、さらに30人増やす計画だ。日本法人における担当スタッフも50%増員している。開発拠点も以前のままスウェーデンに置かれているが、今年は開発者を20%増やすことになっている」

 − 既存ユーザーは何も心配することはないということですね。

 「やはり買収されるということで、当初は不安感を持つ顧客もいたが、独立性を保ちつつ組織体制はますます強化されているので、安心してほしい」

 − 合併のシナジーについて説明してください。

 「ティブコは株式公開しているグローバル企業だ。そのネットワークを活用することで、中東やラテンアメリカ、豪州などいままで手薄だった市場へも積極的に展開できるようになった。また、旧スポットファイアーはライフサイエンスやハイテク製造業に強く、旧ティブコは金融やテレコム分野に実績があるというかたちで、得意業種の違いがあった。合併後はスポットファイアー製品の金融・通信分野への導入がかなり進んできた」

 − 製品面でのシナジー、統合計画などはありますか。

 「ティブコに“ビジネスイベント”というソフトがある。例えば、生産工程で規格に外れた製品が生じてしまったときなどにイベントアラートを発するものだが、そのアラートに合わせて工程のデータを取り込んでスポットファイアーが立ち上がる連携製品を開発中だ。工程に問題が生じたときにすぐにその原因などを分析することができる。いわば“オペレーショナル・ビジネスインテリジェンス”で、今年の第2四半期に発表したいと思っている」

 − 次に、ライフサイエンス分野の戦略についてうかがいたいと思います。

 「新薬開発の幅広いステージをカバーできるように応用領域を広げている。とくに、臨床研究の中に探索的分析手法を持ち込んでもらいたいというのがわれわれの新しい提案だ。臨床試験のフェーズ1のデータを有効活用することで、フェーズ2以降の治験の戦略を再検討できる。どのプロジェクトに投資を続けるべきかの決断を迅速に下すことができるほか、副作用を引き起こすリスクを大幅に削減することも可能。市販後のデータを集めて独自に分析すれば、ファーマコビジランスの推進にも役立つ」

 − 現時点の問題点は?

 「治験のプロジェクトチームに分析の専門家が少ないことだ。データは表形式でみる場合がほとんどで、そもそも分析環境が整っていない。一般の統計ツールは、臨床データ、分子データ、遺伝子情報、発現レベル、安全性プロファイルなど専門的で複雑な情報をうまく統合して扱うようにはできていない。この点で有効なのが、われわれの次世代製品であるTIBCO SpotfireDXPで、ビジネスユーザー向けに使いやすいプラットホームとなっており、分析の専門家だけでなく医師にも活用してもらえる。いろいろな分析手法をワークフローとして登録し、再利用することもできるので、製薬企業の営業やマーケティングの人たちにも浸透させていきたいと思う」

 − 今年から日本語版を本格的に売り出した「TIBCO Spotfire クリニカルソリューション」との関係は?

 「これは、DXPをベースにした専門ソリューションで、複雑で多様な臨床情報の関連性を迅速に把握し、的確な判断を支援するための強力な機能を備えている。多様なデータの傾向や異常値・例外を特定するためのビジュアルな対話型分析環境を有し、有害事象、安全性データ、人口統計および併用薬データを視覚化する機能も持っている。以前からの製品であるTIBCO Spotfire デシジョンサイトは、化学データや遺伝子情報を扱うヘビーな機能で研究分野向けに引き続き販売しているが、DXPの次世代製品としての位置づけを明確にするため、今年夏のバージョンアップで製品名をTIBCO Spotfire バージョン2という名称に変える計画もある」

 − 最後に、今年の見通しを聞かせてください。

 「2008年はかなりエキサイティングな年になると期待している。夏にはDXPがメジャーリリースで生まれ変わるし、ライフサイエンス向けのビジネスは臨床開発や営業・マーケティングの領域に広がって好調に推移している。ティブコとの合併のシナジーも、今年はさらに高いレベルであらわれてくると思っている」