米ケンブリッジソフト:ビル・ボーク副社長インタビュー

日本市場に合わせたスタイルで実績拡大、顧客満足を最大重視

 2008.04.29−旧エルゼビアMDLで日本法人社長も務めた経歴を持つビル・ボーク氏が、今年1月に米ケンブリッジソフト(CS)のエンタープライズセールス担当副社長に就任した。データベースシステムを中心とした企業向けソリューションを推進していく。日本市場には思い入れがあり、またアジア太平洋地域全体としてのビジネス拡大を達成したいとするボーク副社長に今後の戦略を聞いた。

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 − まず、CS社の印象を教えてください。

 「ChemDrawなどのデスクトップソフトで成長してきたベンダーであり、常に現場の研究者の近くにいたためなのだろうが、顧客ニーズに敏感な企業だという印象を持った。顧客満足を何よりも重視する社風であり、エンドユーザーの観点からはCS製品は圧倒的に使いやすく価値があると思う」

 − そのCS社も、近年はデスクトップ製品からエンタープライズクラスへとソリューション領域を広げています。その意味で、前職の経験がどのように役立ちますか?

 「日本の顧客を含めてたくさんのプロジェクトにかかわってきたが、やはり日本向けのソリューションと欧米顧客向けのソリューションには相違点がある。顧客に満足してもらうためのサービスの中身や質が異なってくる。旧MDLは大きな組織で日本のスタッフも豊富だった。今度は少ないスタッフでパートナー連携を主体にしていくという点でビジネスのやり方は変わるが、実績を積み重ねていくことで着実にシェアを広げていけると思っている」

 − 欧米との違いについて、もう少し詳しく教えてください。

 「欧米の製薬会社も国内の製薬会社も、ITソリューションを導入する目的は同じだが、そのプロセスに違いがある。例えば、欧米ではプロジェクトのさまざまなタスクを顧客側がリードし、コントロールするが、日本ではプロジェクトのマネジメント全体をベンダーに委ねる場合が多い。ベンダーとしてはサービスの守備範囲が変わってくる」

 「具体的には、塩野義製薬に電子実験ノートを導入した事例がある。システムインテグレーターとして、IBMビジネスコンサルティングサービス(IBCS)および日本IBMと協業し、CS社は顧客の要求を製品面に反映させることに特化するかたちでプロジェクトに参画した。今回のスタイルは日本の顧客に受け入れられたと思う。これからも日本市場に合わせたやり方で実績を伸ばしたい」

 − 製品面での優位性はありますか。

 「CS製品は、日本の顧客の要求にうまくフィットすると思う。とても完成度の高いパッケージ製品であり、カスタマイズが少なくてすむ。ユーザー固有の要求でつくりこんだ部分も、できるだけ標準化して将来のパッケージ内に組み込むようにしている。それに、電子実験ノートをはじめ、化学構造や化合物データを扱う各種の情報システム、アプリケーションを業務横断的に統合することも簡単に行える。結果的に、導入プロジェクトを短期・低コストで遂行することが可能だ」

 − アジア戦略についてはいかがですか。

 「エンタープライズ製品では、中国(上海)とインド(ニューデリー)に直販営業を置いている。オーストラリアにも近く専任者を配置したい。とくに、中国とインドは医薬品開発業務受託(CRO)市場なども成長しており、当社としてもビジネスチャンスが大きい。ただ、これらの地域は日本とはまた異なった顧客要求があり、たいへん難しい市場でもある」

 「また、中国とインドには外部開発拠点がある。とくに、中国・大連のチームはダブルバイト言語に対応できるため、日本語や中国語のソフトウエア開発が可能。開発の要求にローカルで対応できる体制を築いていることも強みになる」

 − 最近、CS社は日本でのユーザー会開催にも力を入れていますね。

 「以前はパートナーの支援を仰いでいたが、昨年から自前でユーザー会などができるようになった。11月にユーザー会、6月にはセミナーというスケジュールで、次回は6月20日にセミナーを開催する(詳細が公開され次第、CCSnewsサイトのセミナー情報欄で案内します)。ここでは、新しいドットネットバージョンを披露する予定だ。ソフトベンダーとしては、アプリケーションをどのタイミングでドットネット対応に移行させるかが大きな課題になっている。ただ、われわれはユーザーインターフェースはまったく変えないので、エンドユーザーには何も負担をかけないが、システム部門の人たちにとっては興味深いテーマだと思う」

 「当社としては、顧客とのダイレクトな関係を大切にしたいと考えており、ユーザー会やセミナーはそのための大切な機会と位置づけている。それは、顧客満足の高い製品開発を責任をもって行うためで、こちらから開発計画を提示し、ユーザーの要望とのすり合わせを行う。6月に顧客のフィードバックを得るのを楽しみにしている」

 − 最後にお聞きしたいのですが、今回はMDLがシミックスに買収されたタイミング(両社の合併は昨年10月)で、CS社に転職されました。完全な競合という立場になるのですが、そのあたりの心境をうかがってもよろしいですか?

 「MDLには16年間在籍した。自分が大きくしてきた会社だという思いがあるし、いまでも愛着が強い。かつての仲間たちも愛しており、これから競合していくにしても、心情的に彼らにもがんばってほしいという気持ちがある。ただ、われわれも負けてはいられないので、彼らよりも速い成長を達成する。毎年、30%成長という目標を立てており、過去4年間はこれをクリアしてきた。今年の第1四半期も良いスタートを切れている」

 − これからは良きライバルとして共に切磋琢磨したいということですね。ありがとうございました。