菱化システムが密度汎関数ソフト「ADF」の最新版
基本の計算機能を強化、COSMO法の採用も
2008.10.21−菱化システムは、蘭サイエンティフィックコンピューティング&モデリング社(SCM)が開発した密度汎関数法プログラム「ADF」の最新バージョンである「ADF2008」の販売を開始した。量子化学計算を行うソフトで、均一系・不均一系触媒から無機化学、重元素化学、生化学、各種スペクトル関連まで幅広い分野の研究に利用することが可能。今回の最新版では、基本となる計算機能の強化に加えて、高速な半経験的方法であるDFTB(デンシティファンクショナル・タイトバインディング)の組み込み、化学工学分野の熱力学物性予測を行う「COSMO-RS」の追加などが行われている。
ADFは、1970年代初頭にアムステルダム自由大学で開発されたプログラムで、1995年移行はSCM社によって商用版の開発が行われてきている。量子化学計算では、原子軌道を表現する関数としてガウス型軌道が一般的に用いられているが、ADFはスレーター型軌道を採用しているため、相対論的効果をより正しく取り扱うことができる。金属表面や開殻の繊維金属錯体、重元素などを含む複雑な系で本領を発揮するという。
プログラム全体の総称は「ADF2008」と呼ばれるが、コアとなる計算エンジンは分子系を扱う「ADF」と周期系に対応した「BAND」に大きく分かれる。また、それぞれに専用GUI(グラフィカルユーザーインターフェース)ソフトが用意されている。
今回の最新版の新機能としては、ADFでスクリプト作成が簡単になったほか、分極率や磁化率の存続効果、ジオメトリーオプティマイゼーションの改善、BAND関連では遷移状態探索、振動計算、ESR/Aテンソル/gテンソル−などがある。また、半経験的方法のDFTBが新しく組み込まれており、これを用いて前段階としての構造最適化計算を行うことも可能。今回からMOPAC2007も同じ用途で活用できるようになっている。
新プログラムのCOSMO-RSは、COSMO法を用いた量子化学計算で熱力学物性を予測する機能を持つ。活量係数、蒸気圧、沸点、分配係数、溶解度などを計算することにより化学工学分野に役立てることができる。ただ、菱化システムでは同じCOSMO法を用いた「COSMOtherm」(独コスモロジック)を扱っていることもあり、現時点ではCOSMOthermの方が高機能であることから、当面は日本市場ではCOSMO-RSを積極的に紹介しないことにしている。
なお、ADF2008のライセンス価格だが、ADFとBANDはコンピューターのコア数に応じたノードロック年間ライセンスとなっており、4コアまでの場合はADFが企業向け78万7,500円、官公庁39万9,000円、教育機関11万5,500円(BANDの価格はすべてこの半額)。GUI価格は別で、ADF向けは企業52万5,000円、官公庁21万円、教育機関5万7,750円からとなる。(BAND向けGUIは同様に半額)