2009年夏CCS特集:総論

実効性の高いシステムへ−ベンダー各社独自色、研究開発サイクルを統合支援

 2009.06.24−コンピューターケミストリーシステム(CCS)市場は、医薬を中心としたライフサイエンス分野で堅調な動き。昨年秋以降の景気後退の影響で、エレクトロニクスや自動車を主用途とする材料設計分野は落ち込みをみせたが、全体ではほぼ横ばいの推移となっている。今年度は、IT投資の抑制やソフトウエアの保守の打ち切りなどのコスト削減が予想されるが、ユーザー側も投資にメリハリを持たせようとする中で、とくに研究の武器であるCCSには一定の予算を割くという見方もできる。実際、自動車分野などでストップしていた商談が再開しつつあるという話しもいくつかあり、下半期に向けては明るさもみえてきている。今後は、研究プロセスに密接に結び付いていたり、導入の目的や効果がはっきりしていたりするなどの実効性の高いシステムへのニーズが拡大しそうだ。

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2008年度国内市場373億円の微増、材料系需要の回復期待

 CCSは、原子・分子、素材や材料をテーマとした研究開発支援システムの総称で、大きく材料科学分野と生命科学分野を対象にしたシステムに分かれる。あるいは、主にリサーチ(研究)に役立たせるシステムと、デベロップメント(開発)のさまざまな段階を支援するシステムに分けることもできる。どちらかというと、研究分野はシミュレーションや解析を行うソフト、開発分野は情報管理を中心にした業務システム的な性格のものがメインになる。また最近では、研究から開発までのサイクル全体をカバーする情報基盤的なシステム、個々の研究開発プロセスにおいて必要となる情報を提供するデータベースサービスへの需要も高まっている。

 CCSベンダーは海外の企業が中心になるが、それぞれに専門特化したところが多く、直接の競合関係は数社にとどまる場合が多い。国内ベンダーはそれら海外製品を幅広く扱うことが主流で、自社製品開発を行っている企業は比較的少ないのが現状である。

 ただ、海外製品を商社的に販売するだけでは生き残ることは難しいため、有力ベンダーのほとんどは技術サポート力を蓄積し、ソフト/ハード/サービスをからめて独自色を発揮。業務システム系では、海外のパッケージをベースにシステムインテグレーションを行うといった事業スタイルも増えている。

 さて、CCSnewsの推定によると、主要CCSベンダー各社の売上の推移をもとにした2008年度国内市場規模は約373億円で、前年度に対し 0.5%増と見込まれる。景気後退の影響はCCS分野にも無縁ではなく、とくに自動車やエレクトロニクス関連の材料開発をターゲットにしたシステムでは、予算規模の削減、商談の停止、導入延期などが相次いだ。

 とはいえ、やはり技術開発は製造業の生命線であり、景気回復時に波に乗るためにも魅力ある製品づくりが至上命題となる。その意味で、年度末にかけて見送ったCCSへの投資を、夏場に再度見直そうという動きも出てきているという。製薬業向けの生命科学系システムはほとんど落ち込んでいないため、材料科学系の需要が回復すれば、CCS全体としても再び成長軌道に戻ると期待される。

 大学・官公庁向けについては、予算は期初に決まっているため、昨年度も順調な推移となった。今年度についても、補正予算の増額があり、とりあえず懸念材料は見当たらないということだ。

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バイオインフォ底ばい、医薬分野はELN本格導入期へ

 CCS各分野の動きを簡単に概観すると、2003年度のピーク(グラフ参照)を牽引したバイオインフォマティクス市場は、国家プロジェクトの終了とともに縮小に転じ、ベンダーの撤退も相次いだ。現在は底ばいの状態となっているが、大学などでの研究が前進し、創薬や医療などの民間分野に結びつくまでに技術レベルが成熟してくれば、再浮上の可能性も高そうだ。

 材料科学市場はここ数年伸びが大きかったが、景気後退で一気に停滞状態に追い込まれた。ただ、製品の高性能化を極限まで追求するため、あるいは厳しくなる環境規制に対応するため、材料にまでさかのぼって開発を進める傾向がますます強まってきており、景気回復とともに再び需要は活発になると予想される。とくに、排ガス規制に対応した触媒開発、ハイブリッドカーや電気自動車に対応した電池技術開発などで自動車メーカーの関心が高い。

 創薬支援システム市場は、研究業務系システムへの関心が高い。とくに、電子実験ノートブック(ELN)は国内でも本格的な導入期に入りつつある。また、最近は分析機器の進歩により、研究で扱うべきデータが質・量ともに膨れ上がってきているため、情報管理システムへのニーズや構築案件が増加傾向にある。ベンダーによっては、新薬開発段階まで事業範囲を広げているところもあり、いわゆるGLPやGCPなどの支援システム、さらにその関連分野までビジネスが活発化してきている。こうした領域では、開発プロセスのグローバル化への対応が大きな焦点になっているようだ。

 一方、創薬研究段階を支援するCCS製品は長い歴史があり、研究ツールとして完全に定着している。これらのCCSがなければ、いまや研究が成り立たないほど。統計解析やモデル予測、ドッキングシミュレーション、分子科学計算などのシステムが中心で、市場も安定的に伸びている。