米ケンブリッジソフトがアスビオファーマに電子実験ノート導入

非合成部門を含めて本格展開、紙とのハイブリッド運用で利便性を両立

 2009.05.30−米ケンブリッジソフトはこのほど、同社の電子実験ノートブック(ELN)システムをアスビオファーマが導入し、非合成部門を含めた運用が拡大していることを発表した。もともと実験ノートは、合成実験の手順や結果を記録することによって、特許などの知的財産の管理に結びつけることが大きな役割のひとつで、ELNも製薬会社の合成部門での導入が中心となっている。欧米では非合成部門での利用例も徐々に増えているが、日本の製薬会社で非合成部門も含めて導入展開しているのは、今回のアスビオファーマが初めての事例になるという。

 アスビオファーマでは、実験後に得られた化合物情報をデータベース(DB)に登録するための入力システムとして2004年からELNを利用してきていた。この間に、日常的にパソコンを使用し各種のデータ解析を行うなど、研究員のワーキングスタイルが変化するとともに、化合物DBが充実して利便性が実感されてきたことなど、ELN本格導入の“環境”が整ってきたと判断。昨年2月にケンブリッジソフトの「E-Notebookエンタープライズ」バージョン9にバージョンアップし、本格運用を開始したもの。今回、システム構築と運用支援をケンブリッジソフトの代理店である富士通が担当している。

 導入に当たっては、合成部門だけでなく、非合成部門からも生化学系、薬理系、情報系の研究員を含めて推進メンバーを選抜。とくに、非合成系でのELN活用は国内に先例がなく、海外の事例も少ないため、全研究員からアンケートを取り、各部門での活用イメージを慎重に探っていった。

 この検討過程においては、合成系は実験条件の変更など過去データのコピー&ペーストでノート記載作業が簡略化されること、化学量計算や試薬データとの連携などの便利なツールが組み込まれていること、さらに化合物DBとの統合などとメリットが大。生化学系や情報系でも、過去に行った自分の実験や検討履歴を見直す頻度が多く、ELNの検索機能が有効とされた。さらに画像や機器分析などの電子データを扱う機会が多いことから、電子情報をまとめてELNで管理できるメリットは大きいと結論された。逆に薬理系では、動物実験で長期にわたって投薬を行うなど、複数のメンバーが協同して実験を行うことが多く、個人単位でノートをつけるELNに業務内容が適合しないなどの問題点もあり、メリットとデメリットのバランスで判断が分かれたという。

 現在、生物医学研究所の約80人の研究員のうち、合成系・非合成系を合わせて30人強の規模でELNを展開・運用中。パッケージのコンフイグレーション機能を使って、非合成系の業務にもフィットするように手直ししている。

 運用形態は紙と電子のハイブリッド型で、ELNに記入後に印刷し、製本して保管する。製薬会社にとって実験ノートは知的財産の固まりであり、情報の保全の意味でも厳重に管理される。ただ、現場の研究員としては実験ノートはいつも手元に置いて参照したい。その意味で、ハイブリッド運用は、紙のノートを厳重に保管しつつ、電子版で研究員の求める利便性に応えることが可能。現時点では、非常にバランスの取れた運用形態だと評価しているという。