山口大学発ベンチャーTransition State Technologyが正式に設立
量子化学計算用い有機合成支援サービス、独自の置換基法で高速に評価
2009.06.24−山口大学発ベンチャー、Transition State Technology(TSテクノロジー)が23日、正式に設立された。山口大学大学院理工学研究科の堀憲次教授の研究室で開発された化学物質の遷移状態データベース「TSDB」を利用し、コンピューターによる有機合成支援をサービスとして提供する。科学技術振興機構(JST)の独創的シーズ展開事業「大学発ベンチャー創出推進」(07〜09年度)に採択され、本格的な事業化にこぎつけた。計算化学と情報化学を融合した量子化学計算を合成経路開発に応用する堀教授らの研究は世界的にもユニークで、今後の推移が注目される。
新会社であるTSテクノロジー(http://www.tstcl.jp)の本社は、山口県宇部市常盤台2-16-1、山口大学工学部ビジネスインキュベーション棟206、電話およびFAX番号は0836-35-9228。資本金は555万円で、社長には堀研究室出身の山口徹氏が就任した。社員4人でスタートし、堀教授は最高技術顧問を務める。
同社が提供するサービスは、「理論計算による合成支援」で、受託計算、有機合成支援、受託研究などのスタイルで、合成方法の開発・改良、副反応予測・選択性予測、触媒の構造設計や作用機序の解明、収率予測、最適な溶媒や添加剤の選択など、有機合成に関するさまざまな問題を解決する。
典型的な多段階反応では、適切な合成経路や反応条件などを探るために100通りほどの実験を行う必要がある。量子化学計算で化合物の遷移状態を調べることにより、実験の回数を減らし、大幅な時間短縮・コスト削減を達成することができるという。
そのためのコア技術が「TSDB」(遷移状態データバンク)。量子化学計算は非常に時間がかかるため、膨大な組み合わせをすべて計算するのは現実には不可能。そこで、あらかじめ遷移状態の計算結果をデータベースに蓄えておき、その情報を用いることで精度を落とさずに量子化学計算を高速化しようという発想である。
TSDBには200種類の人名反応を含む2,000件の遷移状態データ(高精度な量子化学計算結果)が登録されている。同社は、TSDBの中の類似反応を用いて対象とする系の遷移状態を最適化する“置換基法”(特許取得済み)を開発。これにより、遷移状態を探索し最適化するために通常なら1ヵ月かかる計算が、3日間に短縮できるということだ。また、2,000件のデータで、その数百倍の反応に対応できるのが特徴で、新規の反応でも幅広く評価することが可能になる。
費用は個別見積もりとなるが、合成支援で1.2〜2.5倍、受託研究で1.5〜2.8倍、包括的な研究受託で1.8〜3.2倍の投資対効果を提供できるということだ。
同社は、社内に合計480コアのPCクラスターシステムを導入。これを利用して顧客向けに商用のサービスを行うとともに、さらに計算を行って反応の種類を増やすなどTSDBの充実も図っていく。今後に向けては、多くの事例を通し、この技術の有効性を確証する実績を積み上げていくことが重要になりそうだ。