トムソン・ロイターが製薬業向けコンファレンス「Pharma Vision 2010」
2大サービスの製品戦略、サービス間でプラットホーム共通化へ
2010.03.12−トムソン・ロイターは、2月24日に東京、26日に大阪で製薬業向けのユーザーフォーラム「Pharma Vision 2010」を開催した。トランスレーショナルリサーチやバイオマーカーなど、最新の話題が基調講演や特別講演で扱われたほか、同社の製品・サービスの現状や今後の方向性なども示された。両日とも定員を超える盛況となり、東京会場では180人、大阪会場では70人の聴衆が集まった。ここでは、同社の製品戦略を中心にいくつかのポイントを紹介する。
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トムソン・ロイターは、トムソンを母体にして2008年4月にロイターと合併してできた企業で、合併後の売上規模は135億ドル。全社では5万人の従業員がいるが、科学技術系の情報サービスを行っている「ヘルスケア&サイエンス部門」は約5,000人で構成されている。
同社では、製薬業においては、“ナレッジ”が競争優位性の源泉になるという考え方のもと、包括的な情報サービスを提供している。その中でも双璧となる統合サービスが「Thomson Pharma」と「Integrity」の2つ。
「Thomson Pharma」の関係では、昨年に統合した治験情報の拡充に力を入れる。情報ソースとなるパートナーとの関係を強め、今年はコンテンツを3倍に増やしたいという。
また、同社では現在、2種類のプラットホーム技術に投資をしているが、ともにまずは「Thomson Pharma」に採用する計画をたてている。第1はAPI(アプリケーションプログラミング)の提供に関するもので、スポットファイアー、パイプラインパイロット、モレキュラーフィールド、ゲノムクエストといったデータ解析系の製品から「Thomson Pharma」のコンテンツを自由に取り込んで利用できるようにする。その一貫で、マイクロソフトのシェアポイントサーバーへの対応、サードパーティーの電子実験ノートブック製品との連携なども推進していく。
2番目は検索技術の高度化。検索の専門家の特殊なノウハウに頼らず、Googleのように誰にでも利用できるようにすることが狙いで、マイクロソフトの検索エンジン「FAST」の採用を決めているという。今年の第4四半期に「Thomson Pharma」でベータ版をリリースし、2011年第1四半期での製品化を目指している。
トムソン・ロイターは、コンテンツプロバイダーの買収を通してたくさんのサービスを展開しているが、将来的には各製品でプラットホームを共通化させたい考え。個々の製品の独自性を保ちつつも、各サービス間での連携が容易になるような共通基盤づくりを想定しているということだ。
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一方、「Integrity」関連では、バイオマーカーがトランスレーショナルリサーチの橋渡しをすることで注目されていることを背景に、バイオマーカー情報を重点的に拡充してきている。この1年間で「Integrity」のコンテンツ全体のボリュームは10−20%アップしたが、バイオマーカーに限れば4倍増だという。現時点で4,200のバイオマーカーに関する情報を収録しているが、とくにここ数年は臨床から得られた情報が増えている。
世の中全体でもいまやバイオマーカー情報は氾濫しつつあるが、同じバイオマーカーにいくつもの別名があったり、同じ役割にも表現の違いがあったりするため、通常の検索では情報をうまく拾い上げらないことが多いという。このため、研究においてすでに先行者がいることや、自分が知らない情報があること自体に気づいていないといった重大なリスクを負う可能性が高まっているとしている。
また、バイオマーカー情報を調査するコストも無視できない問題となるが、「Integrity」を利用すると、研究者が3年かけて集めたものに相当する情報量に直ちにアクセスすることが可能。用語のばらつきの問題もクリア済みなので、ほしい情報を間違いなく引き当てることができるということだ。
こうした豊富なバイオマーカー情報は、これまで「Integrity」の中の「バイオマーカーセンター」という名称で提供されてきたが、この3月末からは「バイオマーカーモジュール」と名前を変えてサービスが続けられる。同時に、「Integrity」自体も、正式名称は「Thomson Reuters Integrity」と変わる。
最近の機能強化では、合成スキームを経由せずに中間体や試薬を直接検索できる新しい反応検索機能、化合物の標準名である“InChI”および“InChIKey”への対応、論文作成を支援するEndNoteとの連携−などが行われた。
今後の計画としては、「Thomson Pharma」と同様に「Integrity」でもプラットホームの統合化が進められており、こちらは今年の第3から第4四半期でのリリースとなるようだ。また、APIの公開も予定されており、社内のケムインフォマティクス/バイオインフォマティクス系アプリケーションから「Integrity」のデータを呼び出して使うことが容易に行えるようになる。