分子機能研究所が新型コロナウイルスの医薬候補化合物

インシリコ創薬技術で発見、既存薬64品目と結合親和性高い29物質をリスト化

 2020.05.09−分子機能研究所(辻一徳代表)は、バーチャルドッキングシミュレーションによるインシリコ創薬を利用して、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に効果が期待できる生物活性化合物を発見し、医薬品候補リストとして公開したと発表した。この研究成果が5月1日にFEBS Open Bio誌に受理され、オープンアクセスでオンライン出版されたもの。高速な「rDock」と精度の高い「AutoDock Vina」の2種類のプログラムを利用してスクリーニングしており、最終的に64種類と29種類の化合物を選び出してリストにしている。新型コロナウイルス感染症に対するインシリコ創薬を利用した研究で、正規に査読審査を経て受理された初の報告例になるという。あくまでもコンピューターシミュレーションの結果だが、実際にアッセイ試験を行うことで、有望な化合物がみつかる可能性があるとして注目される。

 今回の研究では、欧州バイオインフォマティクス研究所(ChEMBL)の生物活性化合物データベース(約200万化合物)を利用。まず、金属錯体やイオンなどを除外し、ドラッグライクネス(分子量が500以下など)を考慮した150万化合物を抽出してバーチャルスクリーニングを実施した。ターゲット構造は、今年3月4日にPDBから報告されている結晶データを利用。コロナウイルスを構成するメインプロテアーゼ(Mpro)の活性部位に阻害剤が結合した構造が得られているため、これをモデルとして150万化合物の結合親和性を評価した。

 具体的には、150万化合物を対象に、トータル450万ドッキングモードを「rDock」で評価し、最終的に5万8,000ドッキングモードに絞り込んで、約2万8,000件の化合物リストを得た。このうち、64物質は既存の承認薬(11品目)、臨床試験段階の医薬(14品目)、前臨床段階の医薬(39品目)であり、この中にはドイツ霊長類センターが治療効果が期待されるとしていカモスタットと同じスタット系の抗炎症薬や、インドネシアのアイルランガ大学が効果ありとしている感染症治療薬などが含まれていた。ドラッグリポジショニングの観点から早期に適用できる可能性があるとして、今回の論文「Potential anti‐SARS‐CoV‐2 drug candidates identified through virtual screening of the ChEMBL database for compounds that target the main coronavirus protease」中でこの64物質の詳細なリストを報告している。

 2万8,000化合物の残りは、医薬品として毒性試験や薬物動態試験、臨床試験が行われた物質ではないが、生物活性を有するものも多い。そこで、次に「AutoDock Vina」を利用し、さらに精密な解析を試みた。化合物ごとにトップ9のドッキングモードを最大出力した約51万ドッキングモードでシミュレーションを実行し、経験的結合自由エネルギーでスコアリングした。マイナス9 Kcal/molの指標では700個の候補が残ったが、さらにMproと強く結合するマイナス10 Kcal/molでフィルタリングして、最終的に29個の化合物に絞り込んでいる。論文には、この29物質の詳細なリストも掲載している。

 スコアが良かったものの中に、安全性が確認されている短時間作用型睡眠薬(承認済みの医薬化合物)が存在した。ほかの28個もスコアは高いので、この中から有望な化合物がみつかる可能性がある。同社では、実際にアッセイをして効果を検証できる共同研究先を広く募集したいとしている。

 なお、今回の研究は、同社の独自開発製品である「Homology Modeling Professional for HyperChem」(HMHC)および「Docking Study with HyperChem」(DSHC)上で実施した。また同社では、コロナウイルス表面エンベロープ糖タンパク(成熟型)をホモロジーモデリングし、それと結合する抗体医薬分子設計に取り組んだ研究例もホームページ上で公開している。

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<関連リンク>:

分子機能研究所(トップページ)
https://www.molfunction.com/jp/

WILEY(今回の論文の出版先、Accepted Articlesのタブからアクセス)
https://febs.onlinelibrary.wiley.com/journal/22115463


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