デンマークQuantumWiseが全額出資で日本法人設立

東京理科大学との共同研究を開始、次世代先端デバイス設計に道

 2011.11.01−デンマークのシミュレーションベンダー、QuantumWise社(クオンタムワイズ、カート・ストックブロCEO)が全額出資の日本法人を設立し、東京理科大学工学部の山本貴博博士の研究グループと共同研究を開始した。同社は、ますます微細化する電子デバイスの電気伝導特性を量子力学的視点でシミュレーションするソフトウエアを開発しており、次世代メモリーやマイクロプロセッサー開発に有用な技術として注目されつつある。とくに今回の共同研究では、山本博士の先進的な理論をプログラムに取り入れることにより、世界初を含む最先端のシミュレーション技術の確立を目指している。次世代の高周波デバイスや熱電変換素子への適用が期待されるという。

 日本法人「QuantumWise Japan」の設立は9月1日。資本金は800万円で、住所は東京都新宿区西新宿6-10-1(日土地西新宿ビル8階)、電話は03-5325-3057、FAXは03-5325-3058。8月末まで国内代理店を務めていたサイバネットシステムで同事業を担当していた臼井信志氏が代表取締役に就任している。海外での法人設立はこれが初めて。

 同社の製品は、もともとデンマークのコペンハーゲン大学やデンマーク工科大学などを中心とする研究組合によって開発された密度汎関数法(DFT)プログラム「SIESTA」をベースにしたもので、計算エンジンの「Atomistix ToolKit」とGUI(グラフィカルユーザーインターフェース)の「Virtual NanoLab」から構成される。

 これまではアカデミックでの利用が多かったが、電子デバイスの微細化が進み、設計時に量子力学的影響を考慮する必要が高まったことにより、産業界でのニーズも増加。開発側も、現実のデバイス構造に近い大きな系を扱えるようにするため、半経験的方法やタイトバインディング法を採用するなど、計算エンジンの高速化に力を入れてきている。

 さて、今回の共同研究は、東京理科大学の技術移転機関である科学技術交流センター(TLO)の協力で実施されるもので、テーマは「ナノデバイス設計支援シミュレーターの開発と応用」。2013年8月までの2年間のプロジェクトとなっている。山本博士が理論的解析手法の開発を行い、QuantumWiseのデンマーク本社と日本法人が計算エンジンへの組み込みと実証計算を担当する。

 具体的には、「ナノデバイスの交流応答特性の理論的予測」と「ナノ材料の熱電変換効率の理論的予測」の2分野で研究を進める。前者は、テラヘルツクラスの高速な周波数で動作するナノデバイスの特性を予測しようとするもの。この領域では実験での知見もほとんど蓄積されていないことから、シミュレーションでの予測が重要になるとみられる。とくに、交流での応答を市販ソフトを使って解析するのは初の試みになるという。

 一方、後者は、熱を電気に変換する素子の設計・開発に道をつけるもので、その熱電変換効率のシミュレーションの実現を目指す。量子力学でこうした問題を対象にするソフトは完全に世界初だという。現在、生成されたエネルギーの多くは熱として失われるが、熱を回収し再生利用するためには巨大なタービンなどが必要になるのが実情。微小なナノデバイスで熱から電気を生成できれば、再生可能エネルギーのまったく新しい用途が開かれる可能性もある。

 今回の共同研究の成果は、国内外の学会論文などを通して随時発表するほか、QuantumWise製品に実装して世界中の研究者が利用できるようにしていく。


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