京都コンステラ・テクノロジーズ:村上竜太社長インタビュー

インシリコスクリーニングサービス拡充、国産ソフト開発力も強化

 2013.07.20−京都コンステラ・テクノロジーズは、2008年に設立された京都大学発ベンチャー。創薬支援のための計算化学専門ベンダーで、相互作用マシンラーニング法(CGBVS)と呼ばれる独自の手法を武器に着実に実績を積み重ねてきている。小回りを利かせユーザーニーズにきめ細かく対応するため、7月からはサービスメニューも拡大した。村上竜太社長は、「大手製薬企業と中堅・中小とで計算へのニーズは微妙に異なるが、計算化学自体は技術的にこなれてきているため、製薬企業が計算を外注する土壌が整ってきたと思う」とサービス事業の強化を目指す。また、独自の技術を生かして、「自前でソフト開発する力を持つことが重要。技術を生み出す“学”と、それを利用する“産”の間に入って、両者の活動を盛り上げるような立場になれたらいい」と話す。

                 ◇       ◇       ◇

 − 設立の経緯を教えてください。

 「京都大学大学院薬学研究科の奥野恭史教授(システム創薬科学)から声がかかって、事業化の調査・検討をしたのがきっかけ。ちょうど、創薬ベンチャーブームのあとであり、自分で創薬をするのではなく、それを支援するIT(情報技術)ベンダーとしてコツコツやっていこうと決めた。京都大学から、奥野教授のCGBVSの独占実施権を付与され、事業化に乗り出した」

 − そのCGBVSについて説明してください。

 「化合物のインシリコスクリーニングの新しい手法だ。受容体の構造が既知の場合にリガンドの結合性を評価(ドッキングシミュレーション)するストラクチャーベース、受容体が未知の場合にリガンド構造の類似性などを指標に探索するリガンドベースという二大手法に対し、たん白質と薬物との相互作用データを用いるケミカルゲノミクスベースの手法がCGBVSだ。アミノ酸配列情報と化学構造情報をもとにした相互作用データを機械学習させ、複雑な相互作用パターンを統計的にルール化する。そのルールに基づいて調べたいたん白質と薬物の相互作用を予測しスクリーニングを行う。たん白質の立体構造が未知でも適用でき、いままで気づかなかった相互作用が判明したり、新規の骨格構造の発見につながったりするなどのメリットがある。これまでの受託解析の実施例として、GPCRで15件、イオンチャンネルで9件などのほか、キナーゼや酵素系などで多くの実績がある」

 − 昨年10月にはCGBVSをパッケージ化した「CzeekS」を製品化しました。

 「パッケージ化に当たっては、受託事業への影響を心配したが、結果的には杞憂に終わった。計算部門が充実している大手製薬企業はパッケージを買ってくれるし、計算スタッフが少ない中堅・中小は受託サービスを利用してくれる。うまくすみ分けができている」

 − ユーザーの事情でニーズが異なるということですね。

 「そこで、計算に対する潜在需要がまだまだあることに気づいた。大手ユーザーは日常的な計算にわずらわされていて、本質的な研究に割くべき時間を奪われている。逆に、中堅・中小ユーザーはスタッフ不足のため計算を活用できていなかった。一般的な計算は誰がやっても結果は同じなので、当社のような外部に任せてくれればいいし、社内のスタッフが足りないなら当社のリソースを提供できる。それで、気軽に利用してもらえる“ワンストップ計算サービス”を立ち上げた」

 − なるほど。

 「これは、スピーディーかつ安価にインシリコスクリーニングを行うサービスで、独自のCGBVSだけでなく、ストラクチャーベースやリガンドベースの手法も含めて最適なかたちで実施する。オーストリアのインテ・リガンド社のファーマコフォアモデリングソフト「LigandScout」や、国産の分子シミュレーションソフト「myPresto」など、外部のソフトも活用できるようにしている」

 − 今回、それに加えて新しい「コンステラフルサポートサービス」を開始するわけですが、その狙いを教えてください。

 「ユーザーの計算ニーズをさらに掘り起こしたい。半年から1年という継続的な体制で、社内の計算部門と同様の感覚で当社を利用してもらおうという考え方だ。身近な存在として、計算に関するどんな相談にも対応する。基礎となる講習会・勉強会の実施から、具体的なプロジェクト実施前の計算コンサルティング、実際の計算実務、またデータベースやサーバー構築、ツール作成などの周辺業務まで、当社の専門スタッフがフルにサポートする。また、フルサポートの契約に先立って、社内の計算ニーズを洗い出すコンサルティングサービスも合わせて提供していく」

 − よくわかりました。設立して6年目ということで、ちょうど創業期から発展期へと向かうところだと思います。あらためて目標を聞かせてください。

 「奥野教授からお聞きしたことだが、産学連携の厚みが日米で大きく違うらしい。端的に言うと、産と学の間に立ってサポートする国産ソフトベンダーが少ない。大学の先生方は民間からのあまり学問的ではない相談事に時間を取られているし、民間の方はルーチン化した計算に追われて、本来の研究活動に専念できないでいる。このギャップを埋めるアウトソーシング市場をしっかりと創出したい。そのためには国産ベンダーとしてのソフト開発力は必須であり、自社商品としてのパッケージ戦略も引き続き強化していく。現在のパッケージソフトとしては、米食品医薬品局(FDA)が公開している全世界の有害事象レポートデータ(FAERS)を活用するための「CzeekV」があるが、創薬支援領域では「CzeekS」に加えて、最適化アルゴリズムを用いたデ・ノボ(de novo)分子設計システム「CzeekD」を開発中だ。商品名の中の“zeek”は大戦中のゼロ戦の通称(zeke)をもじったもので、国産ソフトで羽ばたこうという思いを込めている」

******

<関連リンク>:

京都コンステラ・テクノロジーズ(トップページ)
http://www.k-ct.jp/index.html

京都大学大学院薬学研究科(システム創薬科学トップページ)
http://pharminfo.pharm.kyoto-u.ac.jp/index.html


ニュースファイルのトップに戻る