分子機能研究所の辻 元代表がたん白質のフォールディングで新発見

アミノ酸のシグナル配列が全体構造を規定、創薬指針への適用も

 2014.02.08−分子機能研究所は、同社の辻一徳(つじもとのり)元代表が、たん白質のアミノ酸配列(一次構造)から立体構造(三次構造)が形成されるメカニズムの一端を解明、その成果をまとめた論文がエルゼビアの「Journal of Structural Biology」誌に受理されたと発表した。核内受容体の立体構造とアミノ酸配列を網羅的に解析し、シグナル配列の局所構造部位がモチーフ構造の形成にかかわって全体構造を決定しているとの見解を示したもの。がんや難治性疾患など、核内受容体をターゲットとした医薬品開発に寄与する発見として注目されるという。

 辻元代表は、大学(東京大学)時代から核内受容体を主な研究テーマとしていた。核内受容体は現在、700以上の立体構造が知られているが、一次構造であるアミノ酸配列の相同性は20〜40%ほどと低いにもかかわらず、とくにリガンド結合部位は常に三層ヘリカルサンドイッチフォールドという構造をとることがわかっている。ここにリガンドが結合すると、その信号が伝わり、ターゲット遺伝子の転写を制御するというメカニズムを持っている。

 この研究で得られた成果の1つがマルチプルアラインメントの新手法。通常は、アミノ酸配列を文字列として扱って複数の配列を比較するが、立体構造とのズレが生じるという問題があった。今回、生命進化の過程で保存されたとされるシグナル配列を構成するアミノ酸残基が、一次構造中のヘリックスやシートの折れ目などポイントとなる場所に存在していることに気づき、その残基の位置を合わせるようにアラインメントを行うと、立体構造のズレがなくなることを確認したという。

 このシグナル配列の局所構造が11ヵ所存在し、たん白質全体のフォールドを規定しており、168種類の核内受容体で検証して例外がないことを確かめたというのが、今回の論文の主旨となる。

 また、この研究の過程で、核内受容体に対して作用するリガンドが、メッセンジャーの働きを強めるアゴニスト(作動薬)になるか、それを弱めるアンタゴニスト(拮抗薬)になるかの違いについても、このシグナル配列が関係していることを計算化学シミュレーションを用いてつきとめた。とくに2ヵ所のシグナル配列が形成するモチーフ構造が重要で、この構造を安定化する置換基を持つリガンドが来るとアゴニストフォームとなり、逆に不安定にする置換基を持っているとアンタゴニストフォームになることがわかった。このメカニズムはよくわかっておらず、いままではリガンドのサイズが大きいために立体障害を起こしてアンタゴニストになるなどと説明されていたという。

 辻元代表は、こうした発見が核内受容体をターゲットとした今後の医薬品開発に大きく貢献すると述べている。分子機能研究所では、ストラクチャーベースドラッグデザイン(SBDD)のためのモデリングソフト「Homology Modeling for HyperChem」を開発・製品化しているが、今回のシグナル配列に注目したアラインメント手法もすでに実装されている。

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<関連リンク>:

分子機能研究所(トップページ)
http://www.molfunction.com/jp/

エルゼビア(Journal of Structural Biology トップページ)
http://www.journals.elsevier.com/journal-of-structural-biology/


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