シュレーディンガーがカタリストと共同でIT創薬の効果を実証

実験と同等の精度で評価、TSUBAME2.5利用でスクリーニングに道

 2015.08.20−シュレーディンガー日本法人は、大手製薬メーカーからスピンアウトしたカタリスト(本社・東京都千代田区、大野一樹代表取締役)とビジネスおよび共同研究のパートナー契約を締結。協業の第1弾として、東京工業大学のスーパーコンピューター「TSUBAME2.5」を利用し、高速・高精度のIT創薬技術の効果を実証した。実験に近い水準の精度で1日当たり400〜500化合物の生物活性を評価することが可能。両社では、計算で実験を代替できればコスト的なメリットも大きいとして、さらに技術の検証を進めるとともに、実際の顧客向けのサポート・サービスにも取り組んでいくことにしている。

 カタリストは昨年12月に設立されたばかりの企業。医薬品の研究開発に特化したインキュベーションをメインの事業としており、代表の大野氏はアステラス製薬で計算化学とケムインフォマティクスの専門家として創薬研究に従事していた。シュレーディンガー日本法人とは、プロジェクトベースでの協業関係が主体となるようだ。

 今回、第1弾として両社が取り組んだのが、シュレーディンガーの自由エネルギー摂動法(FEP)計算「FEP+」を、東工大の「TSUBAME2.5」で大規模に利用し、その効果を実証すること。「TSUBAME2.5」のトライアルユース制度に課題が採択され、実際に共同研究を行った。

 「FEP+」は、グラフィックプロセッサー(GPU)対応の分子動力学エンジン「Desmond」を用いており、GPU型スパコンとも呼ばれる「TSUBAME2.5」とは相性が良い。「TSUBAME2.5」には全体で4,224台のGPU(NVIDIA Tesla K20X)が搭載されているが、今回の実証実験では12台のGPUを使用し、平均的な大きさの受容体や酵素と結びつく化合物の結合自由エネルギーをおよそ4〜5時間で予測することができたという。しかも予測値の誤差は約1.1kcal/molときわめて高精度。「実際のアッセイ試験にも誤差は出る。とくに、ハイスループットスクリーニング(HTS)と比べて同等の精度が出ているといえる」(大野代表)という。今回は12GPUだが、TSUBAME2.5で予約可能な1,200GPUを使用したとすると、1日で400〜500個、1週間では3,500個の化合物を評価できる勘定になる。

 また、コストについては、欧米の例では1つの化合物を合成してアッセイするのに3,000〜5,000ドルのトータルコストがかかるとされる。これに対し、「FEP+」は欧米ではアマゾンウェブサービス(AWS)での利用実績があり、その場合のコストは1化合物当たり10〜50ドルだという。計算のコストの低さは以前からあげられていた利点だが、高精度な計算は時間がかかり過ぎるのが難点で、現場での化合物のスクリーニングには使えないというのがこれまでの認識だった。実際にアッセイを行うのと同等の評価が計算で可能だということになれば、そのインパクトは非常に大きい。

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<関連リンク>:

シュレーディンガー(日本法人トップページ)
http://www.schrodinger.com/jp

カタリスト(トップページ)
http://www.catalyst.jp.net/


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