NIMSなどが材料シミュレーションソフト「PHASE/0」最新版

スパコン「京」へ最適化、スペクトル微細構造解析機能を追加

 2015.12.10−物質・材料研究機構(NIMS)と東京大学生産技術研究所がPHASEシステム研究会を通して開発・頒布しているナノシミュレーションソフト「PHASE/0」の最新バージョン2015.01がこのほどリリースされた。スーパーコンピューター「京」への最適化で計算速度が大きく向上したほか、新機能としてELNES/XANES解析機能が実装されている。アプリケーションとしては半導体材料開発がメインだったが、今後はさらに計算対象を広げていく計画である。

 PHASE/0は、密度汎関数理論に基づく擬ポテンシャル法による平面波基底の第一原理電子状態計算プログラム。全エネルギー、電荷密度分布、電子の状態密度、バンド構造、安定な原子構造などの計算が行える。文部科学省プロジェクトの「戦略的基盤ソフトウェアの開発」「革新的シミュレーションソフトウェアの研究開発」「イノベーション基盤シミュレーションソフトウェアの研究開発」といった一連のプロジェクトを通して開発され、現在は「京」に関係したHPCI戦略プログラム「戦略分野4・次世代ものづくり」、およびポスト「京」の重点課題8「革新的クリーンエネルギーシステムの実用化」に採用されている。ポスト「京」では膜や界面の問題への適用が多くなるということだ。

 さて、今回の最新版「PHASE/0 2015.01」は、「京」への最適化が大きなポイント。とくに、「京」特有のTofuインターコネクト技術に合わせたチューニングにより、計算のボトルネックになっていたフーリエ変換を大幅に高速化することに成功。並列処理効率も改善され、全体で大きな高速化が達成できたという。

 また、新機能としてELNES/XANES解析機能を実装した。ELNES(エネルギー損失吸収端微細構造)は、EELS(電子エネルギー損失分光法)内殻電子励起スペクトルにおいて、吸収端から高エネルギー側に約30eVにわたってあらわれる微細構造のことで、物質の伝導帯の状態密度分布がわかる。XANES(X線吸収端構造)は、X線の吸収端から50eV程度の範囲にあらわれ、元素の価数や化学形態がわかる。今回の新機能で、こうしたスペクトルの微細構造の解析ができるようになった。海外のソフトには実装されている機能で、ニーズが高かったという。

 さらに、バンド構造を群論に基づいて簡約化するプログラムが追加されたほか、PAW(Projector Augmented Wave)法の不具合修正などのバグフィックスが行われた。

 「PHASE/0」の今後の機能強化としては、ハイブリッド汎関数のパラメーター自動決定機能、ESM(Effective Screening Medium)法の導入、NEB(Nudged Elastic Band)法の新たな高速化技法の実装などが予定されている。

 なお、「PHASE/0」は無償でダウンロードして利用できるが、PHASEシステム研究会では使いこなしを促すために講習会活動に力を入れており、次回は来年1月6日に神戸で開催される。

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<関連リンク>:

NIMS(ナノシミュレーションソフトウエアのトップページ)
https://azuma.nims.go.jp/

NIMS(PHASEシステムソフトウエアのトップページ)
https://azuma.nims.go.jp/cms1

HPCI戦略プログラム(第6回PHASE/0利用講習会 案内ページ)
http://www.ciss.iis.u-tokyo.ac.jp/supercomputer/event/event.php?id=77


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