伊コデの分子記述子計算ソフト「DRAGON」適用範囲に広がり

計算毒性学やMMP解析で成果、アフィニティサイエンスが普及を加速

 2017.01.13−伊コデ・ケモインフォマティクスの分子記述子(ディスクリプター)計算ソフト「DRAGON」の利活用が広がっている。分子記述子はQSAR(構造活性相関)で使用される技術で、長年の歴史があるが、DRAGONは計算できる記述子の種類が5,270種とケタ違いに多いのが特徴。計算毒性学やMMP(マッチドモレキュラーペア)解析など新しい応用例が増えている。とくに、多くの切り口で化合物の特徴量を表現できるため、通常の統計処理・重回帰分析にかからないケースでも、機械学習などの手法で複雑な相関関係を探るなどの問題解決に役立つ期待があるという。国内総代理店のアフィニティサイエンスでは、この機に販売・サポートをさらに強化していく。

 DRAGONは1997年に開発され、商用版が2000年にリリース。ディスクリプター計算では、世界で最も使用されているプログラムだという。原子タイプや官能基・フラグメントのカウント、位相・幾何学的な記述子だけでなく、分子のトポロジーやジオメトリに基づく記述子や分子特性(logPなど)を利用することも可能。リピンスキールールに基づくドラッグライク/リードライクなどの指標も分子構造の特徴量として利用することができる。最新版はバージョン7で、計算可能な分子記述子の数は最大5,270。断片化された分子のフィンガープリント計算機能、連結していない構造を持つ分子(塩やイオン性液体など)の記述子計算などの機能が追加されている。

 アフィニティサイエンスは、2007年の設立当初からDRAGONの販売権を取得しており、国内でもロングセラー製品となっている。ユーザーも年々増加傾向であるため、同社では具体的な成功事例を示して有効活用を促すため、昨年12月にセミナーを開催した。今回は、その中から大学での事例を紹介しよう。

 まずは計算毒性学への適用。構造と活性の相関を調べるQSARと同様に、構造と毒性で相関式を構築し、任意の化合物の毒性を予測しようというものだ。ただ、化合物の毒性は作用する対象がはっきりしていないことが多く、複数のタンパク質が関係することもあるため、きれいに重回帰分析できない場合が多いという。これは、構造と薬物動態との相関、構造と薬物相互作用との相関、構造と材料物性との相関などの問題でも共通の課題となっている。このため、機械学習を採用し、毒性予測を試みた。

 これは、明治薬科大学臨床薬剤学研究室の植沢芳広准教授らの研究で、米国立衛生研究所(NIH)などが実施しているコンペティション「Tox21データチャレンジ2014」での成果となっている。このコンペには18ヵ国/125チームが参加し、核内受容体関連パスウェイやストレス応答パスウェイなど12種類の毒性予測ターゲットに挑んだ。植沢准教授らのチームの予測手法は、大量の記述子を使用するとともに、ランダムフォレストモデルによる機械学習で最良の予測モデルを絞り込んだことがポイント。全部で4,071個の記述子を使用したが、そのうちの3,333個をDRAGONで生成した。

 結果としては、エストロゲン受容体αリガンド結合部位に関連した予測で第1位となり、ウイナーに輝いた。これ以外にも、エストロゲン受容体α前配列、芳香族炭化水素受容体、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γ、転写因子Nrf2/アンチオキシダント応答配列、ATPaseファミリー・AAAドメイン含有5、p53−の6課題でも結果を出したという。

 一方、東京大学工学系研究科化学システム工学専攻の船津公人教授は、MMP解析などを利用して望ましい物性・活性を持つ構造へ導く新手法を提案した。通常のQSARでは、物性・活性が既知の化合物群(データセット)を用いて統計解析を行い、予測モデル(予測式)を組み立てる。このため、データセットから外れた位置にある化合物に対する予測値の信頼性は低くなる。

 船津教授らは、予測値の信頼性の高い範囲をAD(Applicability Domain、適用範囲)と呼び、予測したい化合物がAD内であればそのまま予測式を利用すればよいが、AD外と判定された化合物でも、適切な構造変化を加えれば、AD内に移行して信頼性の高い予測ができるのではないかというアイデアのもとに研究を開始。

 まず、AD内にあるかどうかを判定するためにワンクラスサポートベクターマシン(OCSVM)を使用した。これは、データ分布から密度を反映したモデルで、とくにデータ密度の高い部分がこの場合のADに相当するという。そして、AD外と判定される化合物をAD内へ移行させるためのベクトルを、OCSVMの偏微分係数で求め、実際にどのような構造変化を行うべきかを調べるためにMMP解析を実施した。

 MMPは、ある部分構造だけが置換されていて他の部分はまったく同じ化合物の組み合わせを見つけ出す解析手法。研究では、分子ペアの記述子をDRAGONで計算し、その差分をとってペア同士を比較することで、記述子の差分がどのような構造置換に当たるかを調べた。

 実際のケーススタディーでは、α2Aアドレナリン受容体に対するリガンドデータ630個を用意し、そのうちの330をモデル構築用に、300を検証用データに使用した。予測対象の物性はpKiとし、最終的にDRAGONで30種類の記述子を生成したという。その結果、検証用データ300のうち、94構造がAD外と判定されたが、MMP解析で55構造をAD内へと構造置換することに成功。それらの構造が実際に高い予測pKi値を持つことを確かめた。船津教授は、DRAGONは分子全体を対象にした記述子計算が容易なため、MMPに向いていると感じたと述べた。

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<関連リンク>:

アフィニティサイエンス(トップページ)
http://www.affinity-science.com/

アフィニティサイエンス(DRAGON 製品情報ページ)
http://www.affinity-science.com/dragon/index.html

伊コデ(トップページ)
https://chm.kode-solutions.net/


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