分子機能研究所の辻代表らが核内受容体のサブタイプ選択性を予測

ヘテロダイマー構造が関係、ONIOM/FMO法で全系量子力学計算

 2017.03.15−分子機能研究所(本社・埼玉県三郷市)は、辻一徳(つじもとのり)代表らが標的タンパク質に対する医薬品分子の結合親和性を、量子力学計算を用いて予測することに成功したと発表した。とくに、複数の受容体(タンパク質)と複数のリガンド(医薬分子)間での相関が得られたことに新奇性があり、その論文が2月5日、FEBS Open Bio誌からオンライン出版された。同じタンパク質でも、サブタイプの違いでリガンドの選択性が変わる理由が、結合部位の構造だけでなく、ヘテロダイマーを形成する受容体の全体構造に影響されていることを示唆する結果が得られたという。

 医薬品の標的となるタンパク質受容体には一般にサブタイプと呼ばれる亜型が存在する。サブタイプは細胞、器官、組織、臓器によって分布が異なっているため、サブタイプ選択性を欠く医薬品は標的外の組織や細胞にも効果を及ぼし、副作用の原因の1つになるとされる。ただ、サブタイプ間で結合ポケット周辺のアミノ酸構造に区別がないケースもあり、リガンドの選択性や結合親和性をシミュレーションで予測することは難しい場合も多かった。

 今回の辻代表らの研究「Identifying the receptor subtype selectivity of retinoid X and retinoic acid receptors via quantum mechanics」では、核内受容体であるレチノイドXレセプター(RXR)のサブタイプα、β、γ、レチノイン酸レセプター(RAR)のα、β、γの6種類に対し、天然リガンドのATRA(オールトランスレチノイン酸)と9cRA(9シスレチノイン酸)、既知医薬品のAm80とLGD1069の4種類の結合をそれぞれシミュレーションした。まずは、全系を量子力学計算(フラグメント分子軌道法=FMO)で解析することを試みたが、計算が収束しないなど問題が多かった。そこで、リガンド周辺をQM/MMのONIOM法で構造最適化したのちにFMO計算を実施。これにより、すべての組み合わせで結合親和性を評価することに成功した。この計算テクニック自体も、今回の研究の成果になるという。

 RXRとRARはアミノ酸配列が大きく異なる別の核内受容体だが、ATRAと9cRAはどちらにも結合することがわかっている。RXRもRARも結合ポケットのアミノ酸構造はそれぞれサブタイプごとの違いはないが、リガンドの結合親和性はサブタイプによって変化する。ただ、実際の生体内ではRXRとRARが結合したヘテロダイマーとなっており、例えばRXRのアゴニスト構造のパートナーがRARのアゴニスト構造かアンタゴニスト構造か、あるいはRARのアゴニスト構造のパートナーがRXRのアゴニスト構造かアンタゴニスト構造かという違いがそれぞれのサブタイプ間の組み合わせとして存在できる。今回の研究は全系量子力学計算によってこうした違いも考察しており、結論として、ヘテロダイマーを形成するパートナータンパク質の構造がサブタイプ選択性に関係していると考えられることを示した。また、受容体とリガンドの結合性の評価は、ポケット部位だけのドッキングシミュレーションではなく、全系量子力学計算による解析が望ましいこともわかったという。

 同社では、創薬支援システム「Homology Modeling Professional for HyperChem」および「Docking Study with HyperChem」を独自に製品化しており、今回の研究にもこれらを活用した。とくに、生体高分子システム全系をあらわに取り扱う非グリッドアルゴリズムや、全系量子力学計算のための全自動インターフェイスが搭載されており、創薬研究を高度化するツールとして活用することが可能。

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<関連リンク>:

分子機能研究所(トップページ)
http://www.molfunction.com/jp/

WILEY(当該論文へのリンク)
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/2211-5463.12188/full


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