東大生研・溝口教授らが機械学習で物質の構造・機能を予測

内殻励起電子スペクトルから定量的に決定、理論計算・専門知識不要

 2019.03.28−東京大学生産技術研究所の溝口照康教授(JSTさきがけ研究者)らのグループは、機械学習を利用し、内殻電子励起スペクトルから物質の構造・機能を直接かつ定量的に決定する手法を開発した。これは、電子線やX線を用いて測定する分光法で、電子が励起した際に生じる吸収スペクトルには原子配列や電子構造に関する情報が含まれている。ただ、そうした情報を得るには、高度な理論計算を行い、計算結果を専門知識に基づいて解析する必要があるため、作業には数日から数週間かかるのが実情だったという。今回、機械学習を行って構築した人工知能(AI)は、高速かつ高精度に定量的な予測を実現するもの。他のさまざまなスペクトルにも応用できるとしている。

 今回の研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業個人型研究(さきがけ)「理論・実験・計算科学とデータ科学が連携・融合した先進的マテリアルズインフォマティクスのための基盤技術の構築」における研究課題「情報科学手法を利用した界面の構造機能相関の解明」(溝口照康教授)に関連して行われた。研究グループには、溝口教授のほか、東京大学大学院工学系研究科の清原慎大学院生、リァオ・クンヤン大学院生、産業総合研究所人工知能研究センターの椿真史研究員らが加わっている。

 具体的には、機械学習としてニューラルネットワークを利用。188種類の酸化シリコン化合物の酸素原子サイトから1,171個の内殻電子励起スペクトルを測定し、これを入力データとした。一方、出力データは物質の構造・機能情報とし、従来のスペクトル解析法によって予測した「シリコン−酸素間の結合距離」「シリコン−酸素間の結合角度」「酸素原子周辺のボロノイ体積」といった幾何学的な情報に加え、「イオン結合性」「共有結合性」といった結合物性、さらに「スペクトルの遷移エネルギー」といった内殻軌道特性を予測するように学習(教師あり学習)させた。

 今回の学習結果を検証したところ、すべての構造と機能の項目において、従来のスペクトル解析での予測とニューラルネットワークでの予測との間に強い相関があることを確認した(別図参照)。いくつか散見される“外れ値”についても、その起源を調べ、解決することができたという。

 さらに、研究グループでは、計算値との比較だけでなく、実際に測定したノイズを含むスペクトルを使った予測・定量化にも取り組んだ。その結果、結合距離(正解値:0.1630/予測値:0.1600nm)、結合角度(同じく147/154度)、ボロノイ体積(同16.4/18.2立方オングストローム)、共有結合性(同0.53/0.51電子)、イオン性(同-1.18/-1.22電子)、遷移エネルギー(同542.9/542.1eV)とも、予測値の誤差はわずかであり、ノイズを含む実験スペクトルからも物質の構造・物性を定量できることがわかった。

 内殻電子励起スペクトルは電子顕微鏡で原子一つひとつから直接測定できるため、今回の技術を応用することで、観察中の領域内に存在する原子一つひとつの構造や機能をその場で決定することも可能になると期待される。

 なお、詳細な論文は、英国物理学会(IOP)発行の「Journal of Physics: Materials」のオンライン版に、「Quantitative estimation of properties from core-loss spectrum via neural network」のタイトルで掲載された。

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<関連リンク>:

東京大学生産技術研究所(溝口研究室のホームページ)
http://www.edge.iis.u-tokyo.ac.jp/


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