2019年冬CCS特集:シュレーディンガー

創薬研究の有効性を実証、プラットフォーム事業に進出

 2019.12.03−シュレーディンガーは、新薬開発のための先端モデリング&シミュレーション技術を研究し製品化するとともに、実際の創薬を通じて実証する取り組みを進めている。ドラッグディスカバリーコラボレーション(DDC)事業として75人の研究スタッフを抱えており、まだ製品化されていないツールも含めて研究開発環境をそっくりライセンスするプラットフォームビジネスにも乗り出している。

 現在、同社は実際に30を超える創薬パイプラインを走らせている。その中にはすでに米食品医薬品局(FDA)で承認済みのものが2件あり、臨床試験に進んでいるものが2件、新薬臨床試験開始(IND)申請中のものが4件含まれている。また、顧客との共同研究とは別に、独自でも5つのパイプラインを進行させている。こうした実績そのものが同社のソフトウエアの価値を裏付けているというわけだ。

 とくに評価が高いのが、受容体に結合した薬物分子の構造の変化が活性に及ぼす影響を正確に予測できる「FEP+」。結合自由エネルギーを計算するプログラムだが、実際には構造の変化を12段階の中間的な状態で示し、それぞれに5ナノ秒間の分子動力学(MD)計算を行う必要があるため、計算負荷が極端に大きい。同社はGPU対応の超高速MDエンジン「Desmond」を開発することでこの問題をクリア。FEP+は実験と同等精度の結果が計算で得られるとして注目を集めている。

 最近では、周辺のソフトウエアを拡充してFEP+の価値をさらに引き出す戦略を進めており、薬物分子の母骨格を置換して適用範囲を広げる「Core Hopping」、10億レベルのバーチャルライブラリーを逆合成展開で発生させる「Path Finder」などを組み合わせることで、化合物の探索空間を大きく拡大し、候補化合物を効率的に絞り込むことが可能になる。また、FEP+による評価はターゲットの受容体構造が既知であることが前提になるため、クライオ電子顕微鏡を利用して構造情報を得る技術開発も進めている。精度の高い複合体構造を得るため、MDを用いてインデュースドフィット(誘導適合)の予測精度を改善する新手法も研究中だ。

 FEP+は大きな計算能力を必要とするため、クラウドと組み合わせることでライセンス数やハードウエア資源の制約を受けないオンデマンド型のライセンスを提供している。ただ、今後は億単位のライブラリーをスクリーニングしたいなどの要求も予想されるため、低分子化合物を対象にした「MacroModel」「Jaguar」「Glide」「Prime」「gDesmond」もCPU/時間単位でのライセンス販売を行うことにした。


ニュースファイルのトップに戻る