筑波大らの研究グループが粉末X線データから電荷移動度を予測

有機半導体で有用性実証、単結晶作製せず時間・コスト削減

 2020.02.21−筑波大学とコンフレックス、豊橋技術科学大学、東京大学の研究グループは17日、化学構造式と粉末X線回折データから単結晶の移動度を簡便に予測する方法を開発し、有機半導体の材料開発を効率化することに成功したと発表した。実際に単結晶を作製して分析する手間を省くことができるため、研究開発の時間とコストが大幅に低減されるという。今回の手法は、有機半導体だけでなく、幅広い分子性材料の機能予測に適用できる汎用性があるため、研究グループでは今後適用例を増やし方法論を改良、さらなる効率化や精度向上を図るとともに、熱電物性や熱伝導など他分野への展開も志向していく。

 今回の研究は、筑波大学数理物質系の石井宏幸助教、小林伸彦教授、コンフレックスの小畑繁昭研究員、豊橋技術科学大学情報・知能工学系の後藤仁志准教授、東京大学大学院新領域創成科学研究科の竹谷純一教授、岡本敏宏准教授、渡邉峻一郎特任准教授らによるもの。論文は、「Charge mobility calculation of organic semiconductors without use of experimental single-crystal data」(単結晶測定データを用いない有機半導体の移動度計算)のタイトルで、Scientific Reports誌に掲載された。

 有機半導体は、プリンテッドフレキシブルエレクトロニクスのための次世代電子材料として研究が活発化しているが、その材料探索のステップは複雑。候補分子をみつけて合成したあと、単結晶を作製し、X線結晶構造解析を実施して、材料に適したトランジスターを作製、それをもとに電荷の移動度を評価することにより、材料の良し悪しを判別している。シミュレーションを用いた移動度予測にも結晶構造のデータが必要であるほか、化学構造式から結晶構造を予測する手法も精度の問題があり、研究プロセス全体の効率化には課題が多かった。

 今回の共同研究では、筑波大グループが構造に対する移動度の大きさなどを迅速に予測する大規模量子伝導シミュレーション法を開発、コンフレックスと豊橋技科大グループが網羅的な結晶構造探索とエネルギー評価による結晶構造予測シミュレーション法を開発した。さらに、大きな単結晶よりも簡便に得られる粉末結晶のX線回折パターンを利用する新しい評価方法を導入した新手法を確立したという。この方法を、東大グループが研究している高性能半導体分子「C10-DNBTD」に適用したところ、実験で得られている結晶構造やトランジスター移動度を、計算で精度良く再現していることが確かめられた。

 単結晶を作製してX線構造解析を行う手間を省いても、高い精度で有機半導体の結晶構造や移動度の予測が可能となったわけで、材料開発を効率化・低コスト化する成果として注目される。手法として汎用性があり、今後の展開も期待できる。

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<関連リンク>:

筑波大学(小林研究室のホームページ)
http://www.bk.tsukuba.ac.jp/~cmslab/

コンフレックス(トップページ)
http://www.conflex.co.jp/

豊橋技術科学大学(計算化学研究室のホームページ)
http://www.cch.cs.tut.ac.jp/

東京大学(竹谷・岡本研究室のホームページ)
http://www.organicel.k.u-tokyo.ac.jp/


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