横浜市大らの研究グループが「例外」をみつけるAIを開発

例外的な光吸収特性を持つ化合物を発見、革新材料の開発に道

 2020.05.29−横浜市立大学大学院生命医科学研究科の寺山慧准教授、理化学研究所革新知能総合研究センター分子情報科学チームの隅田真人特別研究員および津田宏治チームリーダー、物質・材料研究機構(NIMS)国際ナノアーキテクトニクス研究拠点の田村亮主任研究員らの共同研究チームは28日、これまで苦手とされてきた「例外」を発見できる人工知能(AI)を開発、実際に例外的な光吸収特性を持つ有機化合物を複数発見することに成功したと発表した。複数の特性を考慮した上で例外的な特性を持つ物質を効率的に探索することが可能なため、かつてない機能を持った材料創製や新たな基礎研究の端緒を開く可能性があるとして注目される。

 材料開発の進歩は、予想や想定ができない例外的な事象を発見することがきっかけになることが多いが、既存のAIは目標となる特性をあらかじめ設定しているため、研究者の想像を超えるような物質は出てきにくいという問題があった。寺山准教授(研究当時は理化学研究所革新知能総合研究センター分子情報科学チーム特別研究員)らのグループは、機械学習をうまく組み合わせることで例外の度合いを数値化し、例外的な物質を積極的に発見するAIを開発、「BLOX」(BoundLess Objective-free eXploration)と名付けた。

 BLOXは、特性がすでにわかっている物質(既知物質)のデータベースを利用し、特性がまだ不明な物質(未知物質)のうち最も例外的だと考えられる物質を提案する機能を持っている。仕組みとしては、まず既知物質をもとに機械学習によって予測モデルを構築し、そのモデルで未知物質の特性を予測。既知物質が示す特性分布と未知物質の特性分布(予測値)とを比較し、最も外れた位置にあるものを例外的だと判定する。予測特性分布からの外れ度合いは、“Stein novelty”という尺度で評価し、候補物質を選択。この候補物質の特性値を実験や計算で測定し、既知物質データベースに追加していく。これを繰り返すことで、例外的な特性を示す物質データが次々に蓄積されることになる。

 今回の研究では、創薬用の市販分子データベース「ZINC」を利用し、例外的な光吸収特性を持つ化合物を探索した。ここに含まれる分子のほとんどは250〜450ナノメートルの光を強く吸収するため、これ以外の光を強く吸収するものは例外となり、有機色素や有機太陽電池材料などの新たな候補として有望視される。

 具体的には、ZINC内の10万個の分子を対象に、BLOXと密度汎関数法(DFT)計算を組み合わせて、例外的な光吸収特性を持つ分子を2,000回探索、例外的でない分子も含めて2,000個の集合を得た。この物質の分布を調べると、従来手法のランダムな探索よりも分布が大きく広がっており、例外的な分子の候補が多数みつかったという。(別図参照)

 このうち、吸収波長が250ナノメートルより短い、あるいは450ナノメートルより長く、かつ吸収強度の強い分子を実際に8個合成し、実験的に特性を測定したところ、DFT計算で予測した通りの結果が得られた。ZINCに登録されている分子は創薬研究の過程で発見されたもので、もともと光吸収特性は注目されていなかった。このため、BLOXを利用することで、本来の用途を超えた有用な物質・材料を発見できる可能性に道を付けたともいえる。

 なお、今回の論文は、「Chemical Science」誌に、「Pushing property limits in materials discovery via boundless objective-free exploration」のタイトルで掲載されている。

******

<関連リンク>:

横浜市立大学(生命情報科学研究室のページ)
http://www.tsurumi.yokohama-cu.ac.jp/lab/bioinfo.html


ニュースファイルのトップに戻る